「はぁ、はぁ、はぁっ!」

 

先が見えない程の闇に包まれた森の中を一人走る男。

ハンターである彼はある人物から受けた依頼を失敗し、トボトボとアジトへ引き返す途中だった。

しかしアジトへあと少しといった所、そこで彼は背後に違和感を感じたのだ。

彼の奥からひたひたと何者かが追ってきているのは、実力が飛びぬけているわけではない男でもわかる。

だけど振り向くことが出来なかった。


――気配を全く殺しもせずに、こちらに殺気を向けている。


野生に生きる獣でさえ、獲物を狩る時は極力気配を隠すものだ。

その摂理から外れている追跡者の行動は、恐ろしいほどに異常だった。

男は

しかし、男はこうも考えていた。

『アジトまで、アジトまで辿り着けば、仲間がいる。
 一人では無理でも、数で押せばなんとかなるかもしれない』

彼の他にも数人、同じ任務に就き、同じようにアジトを目指しているはずだ。

アジトへ向かえば仲間に出会える公算も高い。

そうなれば相手が何者であれ、迎撃するのは不可能ではない。

しかし、幸か不幸か彼は知らなかった。

 

 

――彼らは既に消されている事を。

――アジトで数十人の者が同じように数で押し返そうとして、返り討ちにあっていることを。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

逃げる、逃げる、逃げる。

 

でも彼は薄々わかっていた。

例えゴールに辿り着けたとしてもあいつを倒すことはできない。

もはや自分はまな板の上の鯉なのだと。

 

「はぁ……はぁ……」

「『        』」

 

後ろで膨れ上がる魔力。

彼は後ろを思わず振り返る。

そこには――

 

 

 

 

 

 

「何も能がないんだから、せめて運命を受け入れるくらいのこと、してくれればいいのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Phantom Summoner

第五話「青年とクマと少女たちの協奏曲」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜KEY地方 Kanon国 スノーフリア〜

 

 

「……寒い」

『それで何回目だ? さくら』

「ここに来てから34回目だよお兄ちゃん。大体一分に一回くらい」

『って数えてたのか、ウリエル?』

「だってうるさいんだもん」

 

 

入国手続きを済ませ、スノーフリアに入った俺達を迎えてくれたのは白銀の雪だった。

大陸で一番北にある城下町、雪の都スノーフリアの名前は決して偽りではない。

それからさくらは俺達の中で一番厚く着こんでいるにも関わらず、始終こんな感じに寒い寒いと騒いでいる。

どうやら南に位置している初音島出身のさくらにはこの寒さは堪えるものらしい。

 

「ウリエルちゃん、寒くないの?」

さくらのそれよりも着込んでいる衣類の数が少ないウリエルにさくらが問いかける。

俺は幽霊だから寒さは感じないが、ウリエルがここまで寒さに強いとは意外だ。

「天界は遥か上空にあるの、ここよりも数倍は寒いわ」

「そ、そんな所行ったら、死んじゃうよ!」

「別にあなたに来てもらいたくは無いから安心していいわ。
 でもお兄ちゃんだったら大歓迎だから
ね」

『謹んで遠慮させてもらうな』

「ぶー、お兄ちゃんのいけずー」

 

ぷくっと頬を膨らませるウリエル。

以前は何が何でも連れて行くような感じだったが、今は俺の決意を汲んでくれたのか、たまに軽口でこんな風に口にするだけになった。

さくらとは相変わらず折り合いが悪いが、話を無視するようなことはなくなった。

殺し合いという名の公開処刑をしようとしていた状況と比較すれば格段の進歩だ。

 

『さて、んじゃとっとと依頼の品を渡して初音島に帰ろう。さくらも寒がってるわけだし』

「うん」

「あっ、あっ、ちょっと待って、暖かい飲み物買ってくるからっ、置いてかないで!」

 

寒がって中々動こうとしないさくらを無理矢理動かせて、俺達は依頼人の姫百合珊瑚なる人物の所へと歩を進めることにした。

 

 

 

 

 

 

〜Kanon国 スノーフリア 国立魔道研究所〜

 

 

 

「すみません。姫百合珊瑚さんという人物に、初音島の白河暦さんから届け物を持ってきたのですけど」

 

国立魔道研究所の受付で、さくらがそう話しかける。

ここはKanon国が魔法や、それを使用した道具を日夜開発しているところだ。

Kanon国は北にある大都市だ。その為、他の地域よりも生活することが困難だった。

冷帯な気候のせいで作物は育たず、住む家や服装も工夫を凝らさなければならない。

それを直接的にも間接的にも助けたのが魔法である。

魔法は人々の家に暖をとらせ、農業の代わりに魔法工業という新しい産業を生み出した。

そのため魔法自体を扱う実力は他の地域と大差はないが、魔力を加工し、それを使用した道具を生産する技術は大陸一とされ、Kanon製の武器や防具は上質品として各国の親衛騎士も愛用するほどの高性能を誇る。

まぁ、魔法を使うさくら、神具という素晴らしい武器を持つウリエル、幽霊で武器を携帯することが出来ない今の俺にとってはこういった用がない限り縁がほとんどない場所だということだ。

その証拠というわけではないが、隣では暇そうに欠伸をしてるウリエルがいる。

 

「どうしたの、お兄ちゃん」

『いや、何でもない』

 

俺が見つめていたことに気付き、慌てて欠伸を引っ込めるウリエル。

やっぱりこういうことには興味は無いんだろう。

神具といい、天界の技術って人間のそれより凄いようだし。

 

「姫百合ですね。おそらく第五研究室にいると思います」

「ありがとうございます」

 

さくらは受付との話が終わったようで一礼した後、こっちに戻ってくる。

その姿は『悪霊遣い』などと言われている風評とは程遠い、ただの女の子のようだ。

 

『さくらも知られて無ければ普通の女の子に見られてるのにな』

「さくらが『悪霊遣い』だなんて思わないと思うよ。
 霊魂を操れる能力以外は、ただの女の子なんだから。
 能力は使用しなければ見えないもの。
 見えないものを見ようとしないでしょ? だって見えないんだもの」

『……そうかもな』

天使であるウリエルから見ればそんなものなのかもしれない。

空気を見ろと言われても、見ることはできない。

そこに確固として存在していても見ることはできない。

それが見えることで、初めて人々は怯えるのだろう。

「だから――――は、――――しなければいけないんだよ?」

「何か言ったか? ウリエル」

「ううん、なぁんにも言ってないよ。お兄ちゃん。
 ほら、さくらについていこ?」

「あぁ、そうだな」


ウリエルは今、何を言おうとしたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

『ここがその姫百合って人がいる研究室か?』

 

研究室に入って一言口を開く。

中はシンプルなつくりになっており、デスクの上にコンピューターが一台、その隣に日焼けマシーンみたいなベットが三台置いてある。

コンピューターの周りには可愛いぬいぐるみがあったりするところから、意外と少女趣味な研究員なのかもしれない。

 

「誰もいないね」

『電気は付いてる訳だし遠くには行ってないだろう、少し待たせてもらおうか』

「そうだね。んー、最近歩いてなかったから少し疲れちゃった。
 お兄ちゃん、ちょっと具現化して」

『は、何でだ?』

 

具現化は魔力を結構使うから出来れば遠慮したいんだが。

 

「もー、何でもいいからとにかく具現化するの!
 早くしないと人が来たらその後ずっと具現化してる羽目になるよ?」

『わ、わかったわかった』

ウリエルの気迫に負け、精神を集中して魔力で肉体を構成する。

肉体が組成され、ひんやりとした冷たさの後、暖房器具が働いているのか徐々に温かさに包まれる。周囲に暖房器具はないが、これも魔力を使用した道具の一種なのだろうと納得させておく。

 

「ほら、これでいいのか?」

「うんうん、それじゃあ……えいっ!」

「おっと」

 

俺を具現化させて何をするかと思えば、いきなり背中に抱き付いてくるウリエル。

その調子でぐいぐいと胸を押し付けてるようだが。

 

「ふっ」

「あ〜! 今、お兄ちゃん鼻で笑ったぁ!」

当たっているモノのボリュームの少なさに鼻で笑うと、ウリエルは大層立腹したらしく、
さり気ない動作で俺の首元に自らの腕を回し、そのまま体重をかけてきた。

どうやらさくら同様、そういったコンプレックスは種族に関係なく共通のものらしい。

授業料はどうやら俺の命になると思うが……というか死んでるし、俺。


「△☆※%#&@§!!」

「人を身体的特徴で貶すお兄ちゃんなんてこうだぁ!」

「さくら! 助け……おい、さくら!」

 

更に体重をかけて首を絞め続けてくるウリエル。

俺はさくらに助けを求めるが、さくらはどこか上の空の様子で俺達を見ていた。

 

「……」

「げほっ、どうした? さくら」

「は、はにゃ? べ、別に祐一君に後ろから抱きつけて羨ましいなぁとかなんてこれっぽっちも思ってないよ?」

「「……」」

「あ」

 

自爆して顔を赤くしてるさくらに、俺は首を絞められていることも忘れて呆然とする。

思えば、一般的なさくら位の歳頃はまだ親の愛情に包まれている頃だ。

 

「ほら、抱きつくか? さくら」

「へ?」

「本当はお兄ちゃんに抱きついてもいいのは私だけだけど、今回は抱きついてもいいわ」

「へ? え?」

 
親の愛情に飢えているだろうさくらを何とかしてやりたいと思った俺は、
さくらの方に背中を向け、しゃがみ込んで抱きつきやすいようにしてあげる。

ウリエルも俺の意図を汲んでくれたのか、俺に加勢してくれる。

 

「ほれほれ、抱きつくなら早くしろよ」

 

さくらは逡巡したのか暫く間を空けたが、おそるおそるといった感じでぴとっと抱きついてきた。

ウリエルよりも軽い重みが背中にのしかかる。

……未発達だとは思っていたがまさかこんなに軽いとは、牛乳ばっかりじゃなくて食事もちゃんと取らせることにしよう。

 

「ね、ねぇ、お兄ちゃん」

「ん? どうしたんだウリエル。少し我慢してろよ、自分から許可したんだからな」

「い、いや、そういう事じゃなくて、後ろ」

 

後ろ?

ウリエルにいわれて首を回して後ろを見てみる。

後ろには抱き付いてるさくらしか――

 

『……』

「うおっ!」

 

な、なんだこれは? 熊のぬいぐるみ?

背中に抱き付いていたのはさくらではなく、茶色みがかった色をした熊のぬいぐるみだった。

 

『……』

「な、なんなんだ、ぬいぐるみが動いてる?」

「こんな技術、天界にも無いよ」

「すっごーい! かわいいね」

 

俺の背中でもぞもぞと動くぬいぐるみ。

それに対して三者三様な反応をしめす俺達。

 

『……』

 

「ふーむ、いったいどういう仕組みで動いてんだろうなぁ」

 

持ち上げてイロイロと調べてみる。

ふむ、見た目はただの人形だよな。いや、普通のぬいぐるみより重いか?

動力がある所は何処だろうな? ひっくり返してみるか。

 

『?!』

 

「って、いたいいたいいたいいたい!」

「だ、大丈夫!? 祐一君」

 

ひっくり返そうとしたら、器用にその腕を絡めとり、後ろに回して関節を極めてくるぬいぐるみ。

見様によっては非常にシュールな光景であるが、実際やられてるこっちからすれば痛いことこの上ない。

それでもぬいぐるみを落とさないようにと律儀に具現化を解かない辺り、俺はお人よしなのかもしれない。

 

「お兄ちゃんを傷つけるなんていくら可愛くても許さないんだからぁ!」

「だ、大丈夫だからグングニルはしまえ! ウリエル」

 

ぬいぐるみ相手に神具を取り出して、本気で叩き潰そうとするウリエル。

気持ちは嬉しいんだが、ぬいぐるみ相手にそれはちょっと大人気ない。

 

『……! ……!』

 

ぬいぐるみは俺への拘束を解き、ぴょんと飛び降りると、こっちを見てファイティングポーズをとる。

な、なんか威嚇してるよ。俺もいろんな敵と戦ったが、まさかぬいぐるみに喧嘩を売られるとは思ってもいないわけで。

とにかくなんか知らんが、すっかり怒らせてしまったようだ。

 

「とりあえず、謝った方がいいんじゃないかな?」

「そ、そうだな。すまん、お前の気を悪くしたんなら謝る。この通りだ」

『……?』

 

俺がペコリと謝ると、ファイティングポーズを解くぬいぐるみ。

でも少し警戒している様子なのか一定距離から近づいて来ない。

 

「もうしないから、許してくれよ。なぁ?」

『……』

 

いったことを理解したのか、とことことこちらに近づいてくるぬいぐるみ。

手が届く範囲まで来ると俺は、またぬいぐるみを抱き上げる。

 

「本当にゴメンな、えーと……」

『……』

そこでこのぬいぐるみをどう呼べばいいのかわからなかったので、即興で名前を考える。

クマ、熊、くま。

名前をつけるのは中々難しいもんだ。まぁ、仮の名前だしそこまで考えなくてもいいか。

「よし、今日からお前は『クマ吉』だ!」

『……』

 

うーん、なんだか気に入らなさそうな雰囲気。

『クマ吉』、ぱっと出た名前の割にはいい名前だと思うんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

「ん、誰かおるん?」

 

そんな事を考えていると、背後から声がかかる。

振り向くと紫に近い髪の両端を団子にし、それを布で被せて止めた髪形をした少女が立っていた。

 

「もしかして、さんちゃんのお客さん?」

「さんちゃん?」

「そや、姫百合珊瑚やからさんちゃんや」

「あ、そうです。ボク達、初音島の白河暦さんからお届け物を預かってきた芳乃さくらです。
 こっちは仲間の相沢祐一君とウリエルちゃん」

「ども」

「よろしく」

「あぁ、暦さんがゆーとった。ウチは姫百合瑠璃ゆーて、
 さんちゃんの助手みたいなことしとる。よろしゅーな」

「こちらこそ。それで珊瑚さんは?」

「もうすぐこっちに来ると思うで」

 

ふむ、こんな若い少女が助手をやってるなんて意外だ。

苗字が同じ所からして、珊瑚さんのお子さんかなにかなのだろうか?

 

「瑠璃ちゃ〜ん……あれ、お客さん?」

「あぁ、さんちゃん。暦さんの所の使いが来たで」

「「え?」」

 

瑠璃ちゃんがさんちゃんと呼んだ人物は、瑠璃ちゃんに髪型も顔立ちもそっくりな少女だった。

違う所といえば髪の色が少し瑠璃ちゃんより青っぽい所くらいか。

 

「あの、姫百合珊瑚さんって」

「あぁ〜ウチのことや。驚いたやろ? 瑠璃ちゃんと顔そっくりやし」

 

いやそこにも驚いてるけど、それよりもその年で研究員やってるところに驚いてるのですが。

 

「さんちゃんとウチは双子やねん」

「へぇ」

「それで、姫百合さん」

「珊瑚でええよ〜、ウチも呼び捨てで呼ばせてもらうから」

「あ、はい。それで珊瑚ちゃん、暦さんに頼まれた例の物なんですけど」

「ありがとな〜、これのおかげで完成が大分近づくわ」

 

さくらは例の木の箱を珊瑚ちゃんに渡す。

これで晴れて任務完了という訳か。

 

「ところで珊瑚ちゃんはどんな研究をしてるの?」

「今は、魔力を燃料にして動く人型ロボットの開発やな〜」

「人型ロボット?」

「天枷機械人形研究所と共同で『だいこん・いんげん・あきてんじゃー』を乗せた機械人形の研究や〜」

 

あの研究所とここでの共同制作か。だから俺達に運搬の依頼をしてきたのか。

 

「『だいこん・いんげん・あきてんじゃー』って?」

「簡単にいうと、人間らしさを出す機能の事や。笑ったり、怒ったり、悲しんだり、物事を発展させた考えをしたり……そういう人間らしさをロボットに搭載する事がこの研究の最終的な目標なんや」

「なんか凄いな。それ」

人間というのは非常に複雑な構造をしてると、昔聞いたことがある。

更にそれを機械で表現するには物凄い高度の技術を要するらしい。

それだけで珊瑚ちゃんは年齢は若いが、素晴らしい研究者だということがわかる。


「元々はLeafの来栖川って所が作り出した技術で、既に試作品も出来てるんやけど、いろいろと問題も多かったみたいでな。
 
だからその問題を克服して、さらに発展をさせたシステムとして開発したのが、この『だいこん・いんげん・あきてんじゃー』なんや」

 

珊瑚ちゃんはそこで話を区切ると、いつの間にか俺に抱きついてたクマ吉をひょいっと持ち上げ、

 

「この子はその試作品の内の一つなんや。今は仮にくまのぬいぐるみやから言葉は喋れへんけど、
 人型のボディに移植した時にはペラペラ喋れるようになる予定や」

「へー、クマ吉って凄いんだな」

「クマ吉? ちゃうよ。この子は」

「いや、俺が勝手に付けたんだけどさ。なんか気に入ってくれなくて」

「あはは、そりゃそ〜や〜」

 

ニコニコ笑う珊瑚ちゃん。

……う、そんなにセンスが悪いか?

 

「だって、この子は女の子やもん」

 

あぁ、納得。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろお暇しようか? さくら」

「そうだね。研究の邪魔すると悪いしね」

「え〜、もう行くの? 結構興味深い話だからもう少し聞いていたいんだけど」

「そんな気にせんでもええよ」

「そやで、さんちゃんがこんな楽しそうなのは久しぶりやし。もう少しいてくれてもええけど」

 

俺達が腰を上げると、名残惜しそうに残念がる珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃん。

でも俺達の仕事が終わった以上、長居はしてはいけないだろう。

届け物も渡したわけだし、これから作業とかで忙しくなってくるはずだ。

 

「また来ますから、それで勘弁してもらっていいですか?」

「う〜、つまらんな〜」

「まぁ、そっちにはそっちの都合があるしな。無理に止めることはできへん」

「はい、それじゃあ」

「ああ、そうや。依頼料をまだ払らって無かったわ。ちょっと待っててな」

 

珊瑚ちゃんはデスクの引き出しから何かを出すと、それにペンで何かを書き込んで俺達に差し出した。

どうやら小切手ってやつみたいだ。

俺とさくらはその小切手を覗き込むと――

 

「こ、こんなに貰えないよ!!」

「たしかにこんなに貰えないよなぁ」

 

そこに書かれていた値段は相場の三、四倍。

普段貰ってる報酬の平均と比較すれば約十倍強の額だ。

いつも報酬が少ない少ないと言っている俺でさえ、こんなに貰うのは気が引ける。

当然その少ない報酬で納得してたさくらがこんな大金をすんなり貰うわけがなく、小切手を返そうとする。

しかし珊瑚ちゃんは、その手を優しく押し留めると、

 

「いや、貰ってほしいんや。こんなに楽しんだのは久しぶりやし、またこっちに遊びに来てくれるんなら、これくらい安いもんや」

「瑠璃ちゃんは?」

「ウチはさんちゃんがそれでええとゆうなら何もいわん。さんちゃんの幸せがウチの幸せやから」

「……うん、なら有り難く頂くよ」

「それじゃ、また来てな〜」

 

俺達が手を振ると、珊瑚ちゃんの肩からぴょこっとクマ吉が現れて手を振り返してくれる。

 

「この子も随分懐いたんやな」

「ホンマや、この子がここまで仲よーなるなんて珍しいわ」

「……この子が自分のボディ、手に入れたときが楽しみや〜」

「あの兄ちゃんには心から同情する――じょ、冗談や。だから関節はあかんって!」

 

 

 

そんな微笑ましい遣り取りの声を聞きながら、俺達は研究室を後にする。

進路は我が家のある初音島へ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

姫百合姉妹の性格が微妙に変わってる気がするのは気のせいです。

いや〜関西弁って難しいネ。なんかエセ関西人になっちゃった感じ。

個人的には書きやすい部類なんですけどね。

今回は後半からウリエルの会話が激減したりと問題もありましたが、どうでしょうか?

最後にクマ吉はちゃんとあの子になります。今年中にアレが出るらしいですが、どっちが先になるかしら?

 

 

 

 

 

備考

 

だいこんいんげんあきてんじゃー

 

略してDIV。

正式名称はダイナミック・インテリジェンス・アーキテクチャという物で、人間のように笑ったり、泣いたりする感情プログラムや物体に対して様々な点から考える事ができる(例えば、椅子を台の代わりに使用する事とか)プログラムの事を主に指す。

他にもイロイロな物が付いているが、作者はあまりわかってないのでこれ位の物だと思っていただければ幸いです。

 

 

 

 

 

キャラ紹介

 

姫百合珊瑚

ランク:C+

武器:杖

属性:水

 

Kanon国立魔道研究所の研究員兼Kanonの学生で16才。

Leaf出身で、性格はほややんとしているが、機械工学においては天才的な能力を発揮する人物。

最近は初音島の天枷機械人形研究所と共同で、DIA(ダイナミック・インテリジェンス・アーキテクチャ)を搭載した魔力を燃料とした機械人形の作成に精を上げている。

 

 

 

姫百合瑠璃

ランク:B−

武器:手甲

属性:水

 

珊瑚の双子の妹で姉と同じく学生兼珊瑚の助手をしている。16才。

性格は珊瑚と正反対でしっかり者。だけど、極度のシスコン。

 

 

 

 

 

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2005年6月5日作成
2007年8月修正・改訂