左手には友との約束、右手には年端も行かぬ少女。


正直に言おう。



















よくまぁ、警備団に通報されなかったもんだ。



 

 

 

Phantom Summoner

第三話『少女⌒2の友情曲』

 

 

 

 

 

 

〜CIRCUS地方 サーカスシティ〜

 

 

『やっと着いたな……サーカスシティ』

「うん、ここまで来れば後は国境越えるだけだね」

 

初音島を旅立ってから一週間。俺達はここまでは何事も無く、CIRCUS地方の首都であるサーカスシティに辿り着いた。

さすがCIRCUS地方の首都と呼ばれるだけあって、街には人がごった返し、活気に溢れかえっている。

 

「国境を越える申請はしたけど……ちょっと予定が狂っちゃったね」

『この時期は人の出入りが激しい時期だからな。でもたった二日だ。のんびり過ごそう』

「えっと……そうしたいんだけどね」

『何か問題でもあるのか?』

 

申請が受理されるまでに空いた二日で何をしようかと考えを張り巡らせていると、さくらが異様にテンションの低い調子で話し始める。

さくらのこういう時は本当にロクなことがないのは、7年間で得た経験だ。

そして今回もその経験に反せず、さくらの口から語られた事実はロクでもないことだった。

 

「旅費……暦さんに悪いと思って、最低限の額しか貰ってなかったの」

『な、なにぃぃぃぃぃぃぃっ!!』

 

人々が一斉にこちらを見る。

さくらはばつが悪そうに苦笑いをして愛想を振りまいた後、こちらを睨みつけてくる。

 

「祐一君! 大声出したらボクが独り言をしてる変な人に見られちゃうでしょ!」

『わ、悪い! でも、最低限の額しか貰ってないって、お前な……』

 

今度は聞こえないように小声で話し始める。

 

「だって、いっぱい取ってっちゃったら暦さんが困っちゃうし――」

『はぁ……』

 

またいつものお人よしが発動したって事か。

いつもいつもの事ながら怒りを飛び越して呆れるな。

 

「それで、二日ものんびりするほどのお金も無くてね〜……どしよっか? 祐一君」

『どうしようかって……野宿しかないだろう』

 

お金が無いなら仕方ないだろう。

自分で蒔いた種は自分で刈れ、はっきり言って自業自得だ。

 

「祐一君はこんな可愛いれでぃ〜に一人で野宿させても平気なの?!」

『うむ』

「うぅ〜、祐一君の薄情者〜」

 

あ、拗ねた。

……全く、普通可愛いレディーが座り込んで地面に『の』の字は書かないだろうに。

 

『まっ、いざとなったら俺が守ってやるから安心しろって!』

 

 

純一との約束もあるし、口ではあぁは言ったものの、女の子を野宿させるのは危険だってことくらい百も承知だ。

いざとなったら、さくらの荷物の二重底に隠してある俺の隠し貯金――通称へそくりを切り崩せばいい。

 

「……」

『ん?』

「……そうだったよ、祐一君がいるんだもんね。それなら二日以内に終わるよね」

『……へ?』

 

な、何か嫌な予感が……

さくらのテンションが低い時に遭うロクでもないことよりも、酷い目に遭いそうな空気を感じる。

そういえば、以前もこういう空気だった時は、珍しく真剣に考え込んでいた気がする。

 

「祐一君! 今からギルドへ行こう!」

『ぎ、ギルドだぁ〜?』

 

ギルドというのはいわゆるハンターへ仕事を斡旋する場所のことだ。

そんな所に行こうという事は……

 

『仕事する気満々か……さくら』

「うん! 世の為、人の為、自分の為に頑張るよ!!」

 

な、なんだとっ?!

あのお人好しの塊のさくらが……自分の為に仕事をするっていいだすなんて……

 

『あぁ……近いうちに大雨、いや魔王、いやいや天使が降臨するな』

「むーっ! それってどういう意味かなぁ?」

『そのままの意味だが?』

「むー……」

『ほらほら、仕事を探すんだろ? さっさとギルドへ行こう』

少し機嫌を損ねすぎたかもしれない。

顔をいつまでも膨らませているさくらを見て自省する。

これ以上機嫌を損ねると後々任務とかで自身に返ってきそうだ。

「あ、あの……ハンターの方ですか?」

 

さてギルドへ行こうと足を進めようとすると一人の少女に話しかけられた。

髪は茶色っぽく、髪留めで後ろを留めている少々たれ目の少女だった。

 

「何か用でも?」

「はい。あの出来ればでなのですけれど、あたしの依頼を手伝って頂けないでしょうか」

「依頼……ですか?」

 

さくらが聞き返すと少女はおずおずとしながらも首を縦に振る。

依頼ねぇ……なんか胡散臭いものを感じるな。

 

「でも、ボク達はこの街には二日しかいないからあまり時間がかかる依頼は……」

「大丈夫です。そんなにお手間は取らせませんから!」

「だって、祐一君」

『うーん、俺は断った方がいいと思う。別に野宿でもいいし』

 

『手間を取らせない』仕事を手伝うなんて聞いたことも無い。明らかに矛盾しているだろ。

一応、別の依頼を受け、もしかしたら刺客に狙われているのかもしれない身としては、こういう怪しい誘いには乗らない方が正解だ。

 

「う〜ん……でも困っている人を見捨てる事なんてボクには出来ないよ」

「あの……誰にお話してるんですか?」

「あっ、気にしないで、ただの独り言だから……うん、わかった。仕事を手伝うよ」

『さ、さくら?!』

「ありがとうございます! それじゃ、早速お手伝いをお願いしてもいいですか?」

「うん、もちろんだよ! ボクは芳乃さくら、短い間だけどよろしくね。えーと……」

「あっ、名乗っていませんでしたね。あたしは小牧です。小牧愛佳」

 

小牧愛佳と名乗った少女はさくらが差し出した手をぎゅっと握り返した。

 

 

 

 

 

〜CIRCUS地方 山脈〜

 

 

『なぁ、さくら。本当に大丈夫なのか?』

 

うっそうと木々が生い茂る山道を歩きながら俺は前のさくらに話しかける。

 

「大丈夫だよ。愛佳ちゃんいい人そうだし」

 

私は怪しいですなんてあからさまにいう奴なんか普通はいないだろ?

 

「それに、愛佳ちゃんって優しい目をしてるもん、きっと大丈夫」

『まぁ、騙されてない事を願うだけか』

「はい、着きました」

 

前を歩く小牧が立ち止まる。

先には岩山にぽっかりと空いた洞穴があった。

 

「ここには凶暴なギガンテスが巣食っているんです」

 

ギガンテス―――確か、巨人型の中級の魔物でパワーが自慢だったよな。

だけど、巨人型っていうのは比較的温和な種族が多いはず……なんか匂うな。

 

「よーし、それじゃあ早速『や、や、ダメです!』……どうしたの?」

「えーと、そのー……そ、そう! 夜に奇襲をかけた方がいいかなって……や、決して芳乃さんの実力を疑ってるわけじゃなくて、えっとその方が楽に倒せるんじゃないかなって……」

 

マンガの様に大慌てで弁解をする小牧。目が渦巻きなのは仕様なのだろうか?

……この動き、何かに似てるよな。あぁ、そうだ。小動物だこの動き。

ハムスターとかが忙しなくヒマワリの種とか食べているのに似てる。

 

『相手の不意を突くのはセオリーだからな……たしかに夜中に攻撃した方が楽だとは思うが』

「そうなの? じゃあ、ここで夜中まで待つよ」

「それじゃあたしは料理の準備をしますから、少し寛いでいてくださいね」

 

小牧はそういうと背負っていた荷物から簡易的な道具を取り出し、調理に取り掛かる。

 

『さくら、どう思う?』

「調理器具を持参してるくらいだし、愛佳ちゃんは料理が上手いと思うよ」

『阿呆。ギガンテスの話さ、巨人が凶暴だなんて裏に何かあるんじゃないのか?』

「うん、もしかしたら祐一君達を殺した元凶が操ってるかもしれないし。

もし……もしそうだったら絶対に殺してみせるよ」

 

さくらはそういっているけど、俺はさくらに元凶を突き止めて欲しいとは思っていない。

さくらには自由に生きてもらいたい、でも俺がこの世にいるおかげでさくらはそんな事を言い出してしまう。

守るべき存在の俺が実はさくらを危険な道へ誘っているんじゃないかと考えてしまう。

さくらの自由を望んでいる俺が、さくらの枷になっているなんて皮肉なもんだ。

 

(どうして俺なんかをこの世に残したんだ……純一、音夢)

「祐一君?」

『あ、あぁ……悪い。少し考え事をしてた』


いかんいかん、どうにも後退的な考えになってしまう。

そんなことになったら俺が全力で止めればいいだけの話だ。


「芳乃さん、晩御飯の支度が出来ましたよ〜」

 

小牧がこっちに呼びに来た。

俺は自然に同化するように気配を消す。

 

『行って来い。腹が減っては戦は出来ないからな』

「うん、じゃあ少し待ってて」

 

小声で俺がそう言うと、トテトテと小牧が来た方に小走りで向かうさくら。

さくらが向こうに行ってしまうと俺は溜まっていた息を思い切り吐き出す。

 

『きっと、純一達が俺を残したのには訳があるはずだ。

その訳がわかるまで……さくらは、例え俺を殺した奴が相手だとしても……絶対に守ってみせる』

 

俺は拳を握り締め、既に沈みかかっている夕陽に向かってそう誓った。

 

 

 

 

 

ホゥ……ホゥ……

 

フクロウが鳴いている。

……もう夜も深いな。

俺は周囲の見張りを一旦止めて、さくらを起こしに行く事にする。

 

『ん?』

 

さくらの隣に……誰か居る?

目を凝らしてよく見るとそれは……

 

「……」

 

小牧? あぁ、そうか。さくらを起こしてくれるんだな。

でも、なんか様子が変だ。

 

「ごめんなさい……芳乃さん……」

『!?』

 

小牧が何かを振り上げるような仕草を見せる。狙いはどう見てもさくらだ。

 

『さくら!!』

「!?」

 

振り下ろした得物がさくらに当たる前に具現化させた腕で小牧を押し出す。

二、三歩よろめき、何が起こったかわからないような顔で辺りを見回す小牧。

……全体具現化は少し疲れるんだが

 

「小牧……だったか? お前、さくらに何をしようとした?」

「えっ? あ、あなたは?」

 

「んな事はどうでもいい。俺は、お前は、さくらに、何をしようとしたのかを聞いているんだ」

 

殺気を滲ませて区切るように告げると、小牧は完全に萎縮したのかペタリと膝を地面について震えている。

 

「……最終通告だ。お前はさくらに何をしようとしたんだ?」

 

先程とは多少柔らかく話しかける。あくまで多少だが。

 

「ぁ……ぅ……あ、あたしは依頼されて……芳乃さんが運んでいる品をう、奪って始末しろって言われて……」

「……依頼されてる割には、あまり信用はされてないみたいだな?

それとも、成功したら小牧を始末しろとでも命令されたのか?」

「えっ?!」

 

周りから戦士のなりをした男達が次々に現れてくる。

ざっと五十人くらいか?

 

「へへへっ……」

「で、どっちだ?」

「どっちでもいいじゃねえか? ここでお前らは死ぬんだからよ」

「えっ? 一体どういう事ですか?」

「な〜に、お前さんが失敗した時の保険ってやつよ。
 
もしも失敗した時に隠蔽のためにお前を殺して、代わりにそいつを奪えと俺達に依頼したって訳さ……

 しかしまぁ、まさか女だったとはな……少しつまみ食いしちまうか? へへへ……」

 

下卑た笑いで小牧の方を舐めるように見る男達。

俺達が持っている荷物はそれほど重要な物なのだろうか?

そうだとしたら、渡すのは非常に拙い。

何分保つか解らないが、やるしかないか。

 

「小牧、お前はさくらを起こすんだ。その間、こいつらは俺が引き受けよう」

「で、でも……」

「死にたいなら別に構わないぞ? 俺はあんたが死のうと生きようと知った事じゃない。
 
 だが、さくらは別だ。あいつはこんなつまらんことで死ぬような人間じゃないんでな」

 

無理に死のうとしてる奴を生かそうなんて思わない。

小牧はしばらく俯き、

 

「……わかりました。あたしはここで死ぬわけには行かないので」

「決まりだな……かかって来いよお前ら。俺がお前らの性根を叩き直してやろう!」

 

ダッ!!

 

小牧はさくらを起こすために、俺はこいつらと戦う為にそれぞれ行動を起こした。

 

 

 

 

 

 

「へへっ、女を庇って一人騎士気取りか? 愚かだねぇ……あんたも」

「本当だ。あのまま俺達の仲間に加われば無駄に命を散らす事もねぇってのにな」

 

ジリジリと肉食動物が獲物を狩るかのように俺に近づいてくる。

だけど奴らは知らないのだ。

狩りをしているのはお前らではなく、俺だということを。

 

「言い残す事はそれだけだな?」

「あぁ〜ん? てめぇ、今の状況わかってんのか?」

「もう少し怯えてくれりゃ狩り甲斐があるってのによ。つまんねぇ野郎だ……死ねよやぁぁぁ!」

 

一人が剣を携え、俺に向かって突っ込んでくる。

だが俺はそれよりも速く、相手の腹部に拳を叩き込む。

近くの大木にぶつかり気絶する男。

それが戦いの火蓋だった。

 

「粋がってんじゃねぇぞっ! 野郎共、やっちまぇ!!」

 

『うぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

統率もへったくれもないバラバラな動きで突っ込んでくる。

所詮、雇われの兵か……

そこいらに落ちていた木の枝を手に取り、一振りする。

枝はひゅっと風鳴りを起こした。

もう少し長めの枝が欲しかったが、贅沢を言ってはいられないか。

 

「七奥義が一つ。七・対・子」

 

ビュウォォォォォッ!!

 

「なっ!?」

 

枝を上下左右前後に高速に振りながら、群れに突撃していく。

相手には高速すぎて、剣の軌跡がどこから来るのかに反応できず、袈裟に、唐竹に、逆風に、枝でその身を打たれ倒していく。


しかし半分くらいまで進んだ所で俺の体に異変が起きる。

やはり、全身の具現化は数分しか保てなかったか。

全身の具現化は魔力を短い時間に大量に消費する切り札。

戦士タイプで魔力のキャパシティの低い俺からすればこの上なく辛い。

実体は無いので斬られても痛くは無いが、その間にここを抜かれてしまったら意味が無い。

 

「おいおい、どうしたぁー!」

「死ねぇーーー!!」

 

迫ってくる傭兵達。

こうなったら魔力を極力使わないように最小限の回避運動に集中するしかないか。

 

「『アースバインド』!」

 

 

ズガガガガガッ!!

 

 

地面を走る岩石のつららが俺を襲おうとしていた男に炸裂する。

 

「祐一君!」

 

さくらが横に付き、後ろから小牧もやってくる。

どうやら間に合ったようだな。

 

「悪い、魔力が足りないんだ。一度消えるからコンファインしてくれないか?」

「うん、わかった」

「コンファイン? それって何なんですか?」

「後で説明してやる!」

 

枝を放り投げ、力を抜いて、霊体に戻る。

 

「え? えぇっ!?」

「我、命を司る者。自然の神々よ、死して我に力を与えし者に仮初の体を!『コンファイン』!」

 

さくらは近くにあった岩に俺をコンファインさせると、続けて魔法を放つべく杖を敵に向ける。

 

「な、なんだ!? どうなったってんだ?」

「落ち着け! 奴は何も変わってねぇ。ただのはったりだ!」

「はったりかどうかその身で確かめてみろ!」

 

ドグォッ!

 

はったりと抜かした男をグーで殴りつける。

コンファインの利点は俺自身が魔力を消費しないだけじゃない。むしろそれはおまけに近い。

コンファインの本質は、コンファインした物によって得られる様々な副産物的な能力にあるのだ。

炎にコンファインすれば発火能力を得られるし、金属にコンファインすれば体が鋼のように硬くなる。

これはほとんど偶然に近いものなので付かない時もある――というかその方が多いのだが、今回のコンファインはばっちり能力が反映していたようだ。

今回、コンファインしたものは岩。つまり俺の体は岩と同等の硬度ということになる。

動きは多少重くなるが、向こうから飛び込んでくれるこの状況ではあまり問題にはならないだろう。

だからこちらは普通に殴っているつもりでも、相手には二倍も三倍もダメージがあるはずだ。

 

「『アースブリット』!」

「のぅっ!」

「んがっ!?」

 

さくらも後ろから少し大きめの石を飛ばして援護してくれる。

俺が前線で大立ち回りを演じ、漏れた敵はさくらが一掃していくおかげで次々に気絶していく男達。

人数は段々と少なくなり、十分で地面に立っているのは俺とさくら、小牧の三名になっていた。

ちなみに小牧はおろか、さくらにも近づけた者は一人もいないという圧倒的な結果だった。

 

「す、凄い……」

「お疲れ様、さくら」

「うん、おつかれ〜」

 

コンファインの時間が切れて、霊体に戻る。

 

「ま、また!?」

「どうしたの?」

「あ、あの……さっきまで居た男の人は……?」

 

どうやら俺について驚いてるようだ。

まぁ、常人には幽霊なんて認められるものではないからな。

 

「祐一君のこと? 祐一君ならそこら辺に居るよ」

 

俺を指差しそう答えるさくら。

死んだ俺がいうのもなんだが、人を指で差してはいかんぞ?

 

『さくら、幽霊に指差したって見えるもんじゃないぞ?』

「あっ、そっか……」

「え、え〜と、どういう事か説明してもらえませんか?」

 

できることなら隠し通していたかったが、このような状況では仕方がないだろう。

さくらは小牧に事情を話した。

自分が『永久桜の魔女』というハンターだという事、俺は本当は幽霊だという事、

そして―――霊魂を操る事ができる能力を持っていて、それを使って俺をこの世界に留めさせているという事。

さくらは包み隠さず全部話した。

小牧は終始無言でそれを聞いてくれると――ニコッと笑った。

 

「道理で強いと思いました。それに霊魂を……それはとても珍しい能力ですね」

「「へ?」」

 

今度は俺達が驚く番だ。

霊魂を操る能力が……珍しい?

いや、確かに珍しい。現在、霊魂を操れる人なんて、いくら世界広しといえどさくらしかいないだろう。

 

「怖く……無いの?」

「なんでですか? 素敵な能力じゃないですか。死んでしまった人とお友達になれるなんて」

「でも、ボクは『悪霊遣い』って呼ばれて苛められてるし……」

 

そうだ。普通は興味なんかより恐怖が上回って、珍しいだの素敵だのという言葉は出てくるものじゃない。

人は死んでしまったら人ではなく、勝手に悪霊という一つの魔物に区別させられる。

だから霊魂もとい悪霊という魔物を扱っているさくらは人々から蔑ろにされる。

それが俺達が今まで出会ってきた奴らの常識だった。

 

「だってあの男の人はあたしを守ってくれたんです。あの人は悪霊じゃない、だったらそれを操ってる芳乃さんは悪い人ではないです」

「愛佳ちゃん……」

「それにそういう意味ではあたしも同じようなものです。

 あたしも体の弱い妹の面倒を見るのに必死で、お友達なんか作ってる暇なんてありませんでしたから」

 

「なら、ボクが友達になってあげるよ!」

 

「えっ……?」

「今まで友達が居なかったんならこれから作ればいいんだよ。

だからボクがその一号になってあげる……って、ボクもお兄ちゃん達のつて以外の友達は愛佳ちゃんで初めてだからあんまり偉く言えないんだけどね」

 

さくらはぺろっと舌を出しながらそう小牧に言った。

 

「芳乃さん……あたしなんかでいいんですか?」

「うん! ボクは愛佳ちゃんと友達になりたいんだよ」

「……ありがとう」

 

―――『悪霊遣い』と呼ばれて避けられていたさくら。

―――妹の為にひたすら仕事に打ち込んだ小牧。

 

この2人なら生涯いい友達になれる。

漠然としてて、根拠も何も無いけれどそんな気がした。

 

(小牧……もしも俺が―――――てもさくらのことをよろしく頼むな)

 

 

 

 

〜CIRCUS地方 サーカスシティ〜

 

 

「それじゃ、愛佳ちゃんはLeafへ?」

「はい、郁乃―――あっ、妹なんですけど―――の事も心配ですし」

「むぅ〜、愛佳ちゃん! その丁寧口調はやめてよ! ボク達は友達なんだから」

 

あれから2日。

さくらと小牧はすっかり意気投合してもう何年も付き合っている友達のそれみたいになっていた。

呼び方も少し変わったし。

 

『それで、大丈夫なのか? 任務が失敗したという事は小牧にも追っ手が来るんじゃないのか?』

「あっ、その点は心配要りません、なのよ。

ここからは船一本でLeafまで一っ飛びの予定ですから」

 

さくらに丁寧な口調は駄目だと言われたからか、少し変な文法で答える小牧。

それでも最終的に丁寧に戻ってる所はさすが小牧か。

 

「それに――」

「『それに?』」

「折角初めての友達ができたのに、死んでたまりますか! こんちくしょーってな感じです」

 

……意味がちょっと解りづらいが、要は折角さくらと初めての友達になったんだから死んでたまるものか! ということらしい。

……あってるよな?

 

「さくらさん達はKanonへ行くんですよね?

道中、色々と大変かもしれませんけど、頑張って下さい」

「うん、愛佳ちゃんも」

「それじゃ、またお会いしましょう……なのよ」

 

小牧の変な敬語を心にしまって、俺達はサーカスシティを後にしたのだった。

 

(それにしても……俺達を狙ってきた奴らは誰なんだろうか……小牧は中継契約だから詳しくは知らないといっていたし……)

 

 

そう、一つの疑問を残して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

愛佳ってこんなキャラだったっけ?(核爆

栞とキャラが被ってる気がする今日この頃。

 

なんか違ったら指摘プリーズ。

にしても長かった……長過ぎた……

普段の3倍は時間をかけたのにこんな作品に。

どうやら時間と出来は比例しないらしいな。

今ほど自分の文才の無さが恨めしいことなど無いなぁ……

 

 

 

補足

 

七対子:るろ剣の九頭龍閃のようなもの。突撃しながら様々な方向から高速の斬撃を浴びせる。

アースバインド:地属性の魔法で地面を走る岩の波を発生させる。

アースブリット:地属性の魔法で岩の欠片を相手にぶつける。

 

 

人物紹介

 

 

小牧 愛佳 (こまき まなか)

ランク:B−

武器:脇差

属性:風

 

Leaf出身の中堅レベルのハンターで17歳。

小さな頃に両親を亡くし、病弱な妹の治療代の為にハンター稼業をし続けている。

武器はあくまで護身用で主戦は出の早い魔法での畳み掛けだが、それでも下手なハンターよりも剣の腕前は上らしい。

性格は温厚で真面目と見られがちだが、内面はお茶目で甘いもの好き。

 

 

 

 

2005年4月19日作成