目が覚めると、彼女が傍らで悲しいやら嬉しいやらよくわからない目をしていた。


それが俺と魔女の出会い。俺が幽霊になったのだと知る30秒前。


俺が彼女を守ろうと決心するちょうど……1ヶ月前。





 

 

 

 

 

 

 

Phantom Summoner

第二話『幽霊と少女の行進曲』

 

 

 

 

 

 

 

〜CIRCUS地方 初音島〜

 

 

「ごちそうさま」

 

さくらは夕食を食べ終え、手を合わせて挨拶をする。

それを見届けると腕を魔力で具現化させ、自分の目の前に置いてある食器を片付ける。

俺は幽霊だから別に物を食べなくても生きていけるし、立ちっ放しでも疲れない。

だけどさくらは俺を普通の人間と見てくれているらしく、ちゃんと俺の席が用意されていて、立派……とは決して言い難いがそれでも美味しそうなご飯を毎日用意してくれる。

さくら曰く、

 

『仏様にも仏壇にお菓子とかお花とか供えるでしょ? それと同じだよ』

 

――らしい。

そういわれると確かに納得してしまうところもある。

だからやっぱり俺のことを幽霊と見ているのではとは敢えて考えないようにしている。

 

 

ピーンポーン……

 

 

さくらの食器洗いを手伝っていると、不意に玄関のチャイムがなる。

 

「お客様かな?」

「うん、ちょっと行って来るね。祐一君は食器洗ってて」

「ん、わかった」

 

そういい残してさくらがお客様の出迎えに玄関へと行く。

こんな時間に一体誰だろう?

 

「芳乃嬢、依頼を持ってきてやったぞ」

「あっ、杉並君」

『す、杉並だとっ!?』

 

杉並――純一や音夢の生前の(自称)親友で今はハンター兼、仕事の斡旋をしている。

さくらとも多少親交があったらしいのでたまに仕事を持ってきたり、差し入れしてくれたりするいい人なのだが、さくらが俺を紹介した時に、ミステリーだか何とか称して俺にさまざまな実験をしようとしてきたことがあって以来、個人的にはあまり好きではない。

内容は語りたくもない、一種のトラウマみたいなものだ。

 

「それで、相沢はどこだ?」

 

?! ヤバい、奴の実験なんかに付き合ったら確実に死ぬ!

……既に死んでいるなんてツッコミは抜きだ。

さくら、頼むから断ってくれ! 今度から夕食の後にアイス2個食べてもいいから。 

 

「祐一君ならさっき何処かに行っちゃったけど……」

「……」

「ほ、ホントだよ?」

「……ふむ、まぁいい。それでは確かに届けたぞ」

「うん、ありがとう。杉並君」

「今日は相沢に良い物を持ってきたのだが……いないのならばしょうがないからな。邪魔した」

 

ガララララッ

 

ドアが閉まる音。どうやら杉並は帰ったみたいだ。

良い物という言葉に少し惹かれたが、どうせ心のバイブルだと言っていたヌーとかいう怪しい雑誌のことだろう。

 

「ふぅ……助かった」

「祐一君、手紙と小包があるよ」

「おう、もう少しで終わるから待て、勝手に開けるなよ!」

 

これはその小包の中身が危険な物だったという事を危惧しての事。

『悪霊遣い』と(いわれる覚えはないが)悪名高い異名を持っているさくらにはよく危ないものが送りつけられてくる。

例え信頼できる杉並が持ってきたからといえども、それだけは信用は出来ない。

爆弾……お札……カミソリ……毒の入った食べ物……自作のポエム(?)、電波な手紙等、考えていたら本当にキリがない。

それから小包を開けるのは暗黙の了解で俺の仕事になっていた。

 

「はい、お茶……で小包は?」

 

さくらに入れたてのお茶を渡しながら小包の所在を問う。

 

「ありがとう。小包なら玄関に置いてあるよ。手紙もその上に置いてあるから」

 

早速玄関へ行き、小包を調べる。

大きさはティッシュ箱位でカミソリなんかは仕込まれていない。

箱を開けると中には手紙が一枚と高級そうな木の箱、手紙は見るのは止めておいた方が良さそうだな。

小包を元に戻し、上に置いてある手紙を見る。

 

『S−ハンター『永久桜の魔女』芳乃さくら様へ

……なんて堅苦しい挨拶なんてしなくてもいい仲だから早速本題に入る。

今回、芳乃に依頼したいのは、小包に入っているこの箱と手紙をKanonの首都にいる姫百合珊瑚という人物に渡して欲しい。

依頼料は相手持ちだから到着してから貰ってくれ。それじゃ、健闘を祈るよ。

 

天枷自動人形研究所所員 白河暦』

 

「祐一君、どうだった?」

 

小包を持って部屋に戻ると、お茶に一生懸命息を吹きかけながらさくらが聞いてくる。

 

「あぁ、暦さんからの依頼だ」

「暦さんから?」

「この箱をKanonにいる姫百合って人に届けるんだって」

「Kanonって……ここから真逆の位置だよね? 早くても一週間はかかるよ」

「それにSクラスに依頼するくらいなんだ。相当ヤバめな依頼と見て間違いはないだろうな……どうする?」

 


最終的に依頼を受けるのはさくらなので、彼女に意見を仰ぐ。

まぁ、聞いた所で既に決まってるだろうが。

 

「うん、頼まれたんだから依頼を果たそうよ。困っている人を助けるのがハンターの仕事……でしょ? 祐一君」

「あぁ、その通りだ」

 

Kanonか。もう行く事は無いだろうと思ってたんだけどな。

……つくづく俺と因縁の深い国だ。



 

 

 

 

 

 

チュンチュン……

 

「さくら、準備は出来たか?」

「うん、よいしょっと」

 

さくらの背中には大きめのリュック。

俺が背負いたい気持ちは山々なのだが、霊魂である俺にそんな事出来るはずがない。

 

「さっ、大旅行にしゅっぱ〜つ!」

 

そして俺達は初音島を後に4大地方北のKanonの首都へ向けて旅立つ。

俺達を見送るように咲く桜の木々が、とても澄んだ青空に映えて一際美しかった。


 

 

 

 

 

後書き

短いなんて言わないで下さい。

ここで区切らないと普通にダラダラになってしまうのです。

一応ここまでがプロローグ的な物になっています。

ここからが本編と言う事で

ここからは段々と改訂前と変わっていくところがあるかもしれませんが、そこは笑って許してください(ぇ

 

 

 

 

人物紹介

 

 

杉並

武器:ナイフ ランク:A−

純一と音夢の生前の親友で今はハンター兼紹介屋をしている。

さくらの事を認める数少ない人物。

ミステリーが好きで、霊魂である祐一に興味を持ち、様々な実験をしようとする。

 

 

 

2005年4月9日作成 2006年11月21日改訂