〜KEY地方 ライング島〜

 

 

 

「ぐわっ!!」

「純一!!」

「兄さん!!」

魔物からの攻撃を受け、声を上げてその場にうずくまる青年と、それを心配する二人の男女。

「だ、大丈夫だ。左腕が使えなくなったけどな」

見ると青年の左腕からはおびただしい量の血が流れ出している。

「バカ! そんなに血が出てて、大丈夫なわけ無いだろうが!」

「そうです! 兄さん、祐君のいう通りです!」

怪我をしていない方の青年は魔物の前に立ち塞がるために、少女は怪我をした青年の治療をするためにそれぞれ動く。

『――ッ!!』

「祐一!!」

「こんな奴らに遅れをとるほどっ!」

 襲いかかる魔物達を無駄の無い動きでしとめていく青年。
飛び掛ってきた魔物を剣で一閃、続いて近くにいた魔物に肉薄。これも横薙ぎに斬り付けて倒す。
その洗練された動きは彼が相応の実力者だということを示す何よりもの証拠であった。

「さすが、Kanonで『ロイアル・ガード』と言われてるだけあるな。見事な戦いっぷり」

最後の一匹を難なく倒して一息つく祐一に、治療が終わったのか、左腕を包帯でグルグルにした純一が労うように話しかけてくる。

「『元』な。今はしがないハンターだ」

「ははっ、違いない」

祐一は多少の自虐を篭めたのだろうが、そんなの気にしない風に笑い飛ばす純一。

「兄さんに祐君。今は友情を深めている場合ではないと思いますよ?」

そこに割り込むように話しかけてきたのは先程、純一に治療を施していた少女。

「なんだなんだ、音夢。こんな時だからこそ、団結して脱出をしようという俺達の考えがわからないのか? なぁ、祐一」

「おぉ、そうだぞ? こんな時だからこそ友情を深めて愛情に……」

「いやいや、そこまでは行かなくていいぞ? 俺はノーマルだ」

「……冗談だ」

「ちょっと待て、なんなんだその妙な間は?」

「……はぁ、私達って本当にピンチな状況なんでしょうか?」

 溜息をつき、なかば呆れた風にその漫才を眺める髪の両側をリボンで止め、首に黒のチョーカーを付けた少女、音夢。
 だがいつものこととはいえ、こんな状況でも能天気でいられる二人を音夢はバカらしいと同時に頼もしくも思っていた。
 このようなピンチの状態では人の思考はマイナスに陥りやすい。
マイナス思考は戦闘にも影響を及ぼし、やがて身を滅ぼしてしまう。
 彼らの最大の武器は小手先の技術力ではない、人よりも卓越した精神力なのだ

「冗談はここまでにして、どうやら今回の依頼は相当ヤバいな。下手な冒険者はとっくに死んでる」

 真剣な顔に戻して呟く祐一。
 どうやらこのような状況はここに着いて初めてというわけではないらしい。

「あぁ、ここは撤退をした方がいい。命あっての物種だし」

 純一も賛同するように頷く。
祐一のような実力者がいるチームで苦戦をするような場所なのだ。
 無理して任務をこなさなくても、生きていれば次がある。

死んでしまっては何にもならないのだ。

「そうですね。早く逃げましょう!」

「「おう」」

たがいに頷きあうと、三人は船をつけた場所まで速やかに撤退を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズシィィィィィィン……

 

「ん?」

「な、なんだ!? この音は?」

 船の場所まであと少しといったところで、彼らを地響きが襲う。
思わず足を止め、周囲の気配を探る三人。

「兄さん! 祐君! 何か来ます!」


 いち早くその存在に気付いたのは、三人の中で一番魔法に優れていた音夢だった。
ゆっくりと前方に姿を現したのは悠に3mを越す巨大な黒龍のような悪魔。
 どうやらここへ逃げてくる冒険者達を待ち伏せしていたらしく、その鋭利な爪からは血が滴り落ち、獰猛な爬虫類独特の眼はしっかりとこちらを見据えていた。

『――――――ッ!!』

「ちっ……想像できたとはいえ、空気読めよな!」

「悪態をついてもいられないだろ? ここを通らなきゃ船まで行けない」

「兄さんは怪我したままですし……私と祐君で何とかしないと……」

「んなこといえるような相手じゃないだろうが!
 あんなバカでかいドラゴン、三人でやっと勝てるか勝てないか……とにかくお前ら二人で戦える相手じゃない!」

「でも逃げるにはここを通らないといけないだろう?
 相手は待ち伏せしてたんだ、易々と逃がしてくれるとも思えない」

「ぐ……」

「なら戦わないといけません。あ、兄さんは見ているだけでいいですから」

「おい、二人とも避けろ!!」

『――――――ッ!!』

 純一が突然叫ぶ。
 二人が振り向くと悪魔は既にエネルギー充填完了らしく、口からプラズマを纏った光弾を吐き出した。

「油断した?!」

「音夢!」

「わかってます! 『サンダーウォール』」

 音夢が呪文を唱えると周りを薄黄色い壁が覆い、雷の壁が出来上がる。
その後ろに三人とも身を隠す。

「純一と音夢はここで待ってろ! 後は俺が行く! 隙を作ったら二人だけでも船へ逃げろ」

「何いってるんだよ! そんな事できるわけ無いだろうが!」

「そうです。祐君一人で敵う相手じゃありません!」

「いいのか? お前ら二人は……」

 この二人は恋仲だったのだ。

音夢は純一の義理の妹だったが、相思相愛だったと祐一は聞いていた。
 だから二人に一番近しい人間として、幸せに生きてもらいたくて、不幸になって欲しくなくて祐一は自ら囮になると口を開いた。
 しかし純一から返ってきた言葉は意外なものであった。

「バカだな。俺達が生きてても祐一がいなきゃ意味ないんだよ。誰が音夢の飯を代わりに食うんだ?」

「……その通りです。祐君がいなければ意味がありません!」

 祐一は
親友の言葉に困惑し、自分を認めてくれる存在に心の中で涙を流し――そして笑った。

「わかったよ。二人がそういうなら俺は止めない。
 それと、絶対に俺は音夢の飯は食べないからな」

「バリアを解きます。そしたら一斉に突撃しましょう――それと兄さん、祐君」

「なんだ、音夢?」

 突撃体勢に入った二人を音夢は呼び止めると、これ以上に無い笑みを湛えてこう言い放った。

「生きて帰れたら、覚えておいて下さいね。私、腕を振るっちゃいますから」

「俺達、どっちでも死亡確定か?」

 周りを覆っていた薄黄色のバリアが消えていく。
 三人は全身の筋にこめていた力を一気に吐き出すように駆けだした。





 

―――そして話は七年後になる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Phantom Summoner

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、魔法やモンスターが渦巻く世界で起こった魔女と騎士のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2005年3月28日作成