〜???〜

 

「やっと、見つけた」

 

無数のモニターの中から捜し人の姿が映し出されたものを発見し、喜び勇んで齧り付くようにそれを凝視する一人の少女。

 

「場所は―――KEY地方のKanonの近く、ね」

 

少女はモニターから得られるだけの情報を持ってきた手帳に書き込み終わるとニコリと微笑む。

それはどこか子供が自分の親を見るような印象を持たせてくれた。

 

「待っててね。今、そいつを殺してこっちに連れて行ってあげるから。祐一お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

Phantom Summoner

第四話『少女と青年と少女の狂想曲』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜KEY地方 Kanon国 平原〜

 

 

「ふぁ〜っ、暇だね〜」

 

CIRCUS地方の首都、サーカスシティを出て早4日。

無事に国境を越え、KEYに入ることに成功した俺達は休息半分に平原の一本道を歩いていた。

あと2、3日も歩けばKanonの首都で、俺達の目的地であるスノーフリアだろう。

これなら依頼も無事にこなすことが出来そうである。

報酬がどれだけかはわからないが、俺らに大陸縦断させるほどだ。

現在の貧乏生活からおさらばできるだけの額は最低でも貰えるだろう。

さくらもそれを自覚しているのか、少々気分をうきうきとさせているのが手に取るようにわかる。

さくらが普通の声量で俺に話しかけてくるのが何よりもの証拠。

普段のあいつは人がいようといまいと、外ではひそひそ声で俺に話しかけてくるのがデフォルトだからだ。

 

 

『それにしても、雪なんて久しぶりに見たなぁ……』

「そういえば、祐一君ってKanonの生まれだったよね」

『あぁ、最近は初音島周辺から離れなかったからなぁ……桜は飽きるほど見たけど』

「そうなの? でも私は桜が好きかなぁ……?」

『ふーん、そうなのか……って誰?』

 

声のした方を見ると、見知らぬ少女が俺とさくらの間を阻むように立っていた。

見た限り、俺達よりも年下でスタイルも相応。

髪の色はきれいな銀色で肩口の所で綺麗も揃えられいる。

そして剥きたてのゆで卵のような輪郭、大きくパッチリとしたサファイアのように青く透き通った眼が銀髪を引き立てつつも自己主張をしているかのように映えている。

あと少し成長すれば絶世の美女とでも謳われそうな容姿だ。

 

「こんにちは」

『さくら、こいつを知ってるか?』

「ボクは知らないよ? 祐一君の知り合いじゃないの?」

『俺の知り合いにこんなちっこくて気配を隠すのが上手い奴なんていない』

「そんな釣れないこといわないで。祐一お兄ちゃん」

「『?!』」

 

少女はまっすぐに俺の方を見て、聞きなれない敬称と共に俺の名前を口にする。

俺の姿が彼女には見えるというのだろうか?

 

「ねぇ、もしかして祐一君が見えるの?」

 

驚きで何も言えない俺の代弁をしてさくらが尋ねる。

 

「うん、だって私とお兄ちゃんはある意味似た者同士だから」

『どういう意味だ? それに祐一お兄ちゃんって……』

 

嬉し―――いやいや、そんなこと思ってないから睨むなさくら。

俺は兄弟がいなかったから、お兄ちゃんなんて呼ばれると新鮮な気分になるだけだ。

 

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。七年前、ライング島でお兄ちゃんが死んだ時、私近くにいたの。
 ……祐一お兄ちゃんの魂ってすっごく綺麗でね。
 もし天界に召されたら私のお兄ちゃんになってもらう予定だった。でもね、私の邪魔する奴がいたの」

「祐一君」

「あぁ」

 

そこで少女は一区切りすると、まだ幼いとは思えない殺気を放って言い放った。

 

「あの男が、あの男がお兄ちゃんを霊魂にしてこの世界に閉じ込めたの。
 ……あの野郎、絶対に許さない。

 地上でも何人もいない程の美しい魂の輝きを持つお兄ちゃんを、生者でもなく、かといって死者でもない。存在として中途半端で、この世界でも最底辺に位置する霊魂なんかにしたあの野郎。
 だけど私決めたの」

『な、何をだ?』

 

な、何を言ってるんだ? こんな少女があの島に居た? 天界に連れて行く?

そんな事できる奴なんて俺は天使位しか知らない。

天使なんて高尚な存在がここまで降りてくるなんて、数百年前の戦争じゃあるまいし、そんなことありえない。

でもこれは――

 

「私がお兄ちゃんを責任を持って天界に連れて行くの。
 そして、私と幸せに暮らすの、兄妹水入らずで、その為にも、ね」

 

それまで風船のように膨れ上がり続けた殺気が――

 

「お兄ちゃんを束縛してる憎いその女をぶっ殺すの!」

「『?!』」

 

一気に爆発した。

疾走してくる少女。手にはいつの間にか汚れ一つ無い純白の槍が握られていた。

 

「射抜け、『グングニル』!!」

『なっ、神具――それも真名付きか?!』

 

神具――神が作ったとされるそれは一見は普通の武具なのだが、『真名(しんな)』と呼ばれる武具の名前を唱えると、さなぎが蝶になるかのように美しい姿に変わり、所有者に大いなる力を与える武具だ。

 

少女の槍――『グングニル』もその枠に漏れず、手には先程の槍の姿は無く、代わりに槍の矛の部分が閉じた傘のように手元まで伸びた槍、いわゆる突撃槍を構えて突っ込んできていた。

 

『さくら!』

「『アースウォール』!」

さくらが生成した土の壁が少女の進路を防ぎ、突撃槍に姿を変えたグングニルは壁に食い込む。

 

「っ?!」

「悪いけど、ボクはそう簡単に死ぬわけにはいかないんだ。『ファイアブリット』」

 

土の壁に手間取っている隙を狙い、背後に回りこんださくらから放たれる三つの火球。

 

「ちっ、『ファイアブリット』」

 

少女は右手でなんとか槍を引き抜くと、振り向き様に大量の火球を放つ。

飛んできた火球は三つの内の二つを相殺し、相殺し損ねた一つは槍を振るって防ぐ。

さくらの方も軽い身のこなしで飛んできた火球を回避する。

 

「中々やるね。さすが『永久桜の魔女』といった所かな?」

「なんだか久しぶりにその名前を呼んでもらった気がするね。
 最近は『悪霊遣い』で通っていたから」

「本当に残念だよ。祐一お兄ちゃんに関わらなければ私達、お友達になれたのに」

「だったらお友達になろうよ。ボクも君とは馬が合いそうだし」

「それ無理なの。あなたは祐一お兄ちゃんに深く関わってしまったから」

 

少女は再びグングニルを構えるとさくらへ突撃をかける。

 

「『アースウォール』」

「同じ手は二度と食わないっ!」

 

突撃槍を土壁に自ら食い込ませると、さらに踏み込んで深々と突き刺す。

おいおい、少女だというのになんて突撃力だ。

なんとか壁は持ちこたえたみたいだが、さくらを守るそれは火球の一発でも喰らえばすぐに崩壊してしまいそうだ。

 

「Bang!」

 

 

ドォォォォォン

 

 

少女の掛け声と共に土の壁が爆発を起こす。

そういえば神具にはこういう特殊な能力を持つものもあると聞いたことがある。

このグングニルとやらはおそらく爆発させる能力を持っていたのだろう。

「もらったぁ!」

 

阻むものがなくなり、そのまま槍を突き刺しにかかる少女。

さくらは慌ててバックステップで距離を離そうとするが、少女はその間合いも一気に詰めてくる。

 

「これで終わり!」

「う、『ウインドアーマー』!!」


少女の的確に心臓を狙った一撃を自らの体に風を纏わせ、無理矢理受け流すことで防ぐ。

さしずめ風の鎧と言った所か。
いつの間にあんな芸当を……お兄さんビックリだ。

 

「『ブリットパーティ』!!」

 

再び距離を空けて、さくらが魔法を唱える。

これはさくらのオリジナル魔術だ。

火、水、風、地、様々な属性の弾が大量に少女に襲いかかる。

多属性の魔法を行使できるが、その代わり上級魔術を放てない為、決定力に欠けるさくらならではの魔法だ。

これは受けきるにも、避けきるにも数が多すぎる。まず直撃するだろう。

 

 

ドドドドドドドドドドドォォォォン

 

 

受けきるでもなく、かといって回避行動もしない。

少女は突っ立ったままでそれらを全てその身で受け止めた。

 

「やった!」

『あれだけの魔力弾を打ち込まれれば、どんな奴でも気絶はすると思うが……』

 

なぜだろうか……これでも安心できない自分がいる。

油断をするなと叫ぶ自分がいる。

それは先程俺が考えていた懸念。

彼女がもし――なら、確実にこんな宴会芸じゃ倒すことなんてできない。

例え俺が戦闘に参加したとしても勝てる気がしないだろう。

 

 

巻き起こっていた煙が徐々に晴れる――

 

 

 

 

「少し痛かったかな?」

「……え?」

 

煙が晴れた場所には、少しだけ顔を顰めた少女が、背中に純白の六枚の羽を生やして立っていた。顔を顰めてはいるが目立った外傷はない、事実上の無傷である。

太陽の光を白羽で反射させ、自ら光を放っているように見える少女はどこか神々しかった。

 

「羽が生えてるよ、祐一君」

『やっぱり天使だったか』

 

まさかとは思ってたけど、実物を見ると驚きは隠せない。

大昔は下にもたくさんいたらしいが、今では一生に一回見れるか見れないかくらい珍しい、もう伝説上の生き物のように扱われている生き物。それが天使なのだ。

そして六枚の羽。

 

『上級天使ってわけか』

 

天使の力は羽の数で決まる。二枚なら下っ端。四枚なら中堅。六枚は一騎当千の力を持つ最上級の兵。

つまり彼女は精霊系でも高位に属する天使の中でも、最上級のレベルに位置するものなのだ。

それがこんな幼い少女だというのはにわかに信じがたいが、それならばあの魔力弾の嵐を防ぎきったことや、神具を持っていたことに納得ができる。

 

「どう思う? 祐一君」

 

さくらも同じことを考えていたのか、俺に意見を求めてくる。

 

『わからん。でももしも本物だとすれば、さくらじゃ勝てないことだけはわかる』

 

もちろん俺でも勝てるわけがない。つまり八方塞、現状況では打つ手無しというわけだ。

俺は手だけ具現化させてポンとさくらの肩を叩く。

 

『おとなしく逝って来い。俺は天界でぬくぬく過ごすことにするわ』

「って、もう既に諦めてる?!」

 

たかだか人間レベルで上級天使と殺りあえっていうこと自体、どだい無茶な話だ。

上級天使は文字通りに一騎当千の兵だからな。

 

「話が終わったらどいて、お兄ちゃんも巻き添えにしちゃうから」

 

いつでもかかって来いといった風に槍を携える少女。

 

『あちらさんはやる気満々のようだから逃げ切ることは無理だな』

「話し合いは――」

『できたらこんな目に遭ってないだろうな?』

「……だよね」



はぁと溜息をつくさくら。

戦うことも、逃げることも、話し合うこともできない。

さて、さくらはどうするだろうか。

 

「いい加減に決まった? おとなしく私に殺されるか、抵抗して私に殺されるか」

「……それはどっちにせよ、ボクが死ぬってことだね」

「当たり前だよ。私のお兄ちゃん(予定)に許可無く話しかけるのは極刑に値するんだから。
 本当なら死すら生温いんだよ?」

 

素晴らしいまでに独占欲の強いお子様だな。

死すら生温いとは、本当は何をするつもりだったのだろうかと少し気になったが、聞くのが怖かったので黙っていることにする。

 

「だったらボクは抵抗するよ。祐一君はボクの大切なパートナーなんだから。

 いつも守られてばっかりだけど、今度はボクが……守る!」

『さくら』

「わかったよ。じゃ、潔く殺されて」

「死なないよ。ボクは絶対に死なない!」

「その生意気な口もこれで叩けなくなるよ!」

 

地を蹴り上げる少女。

迫る速度は先程とは比べ物にならない位速い。

これが彼女の本気――上級天使の力だというのか。こんなの圧倒的じゃないか。

 

「死ねっ!」

「魔術の展開が間に合わない?!」

『さくら!』

 

さくらのレベルでも魔法の展開が間に合わないというのか。

俺は魔力で肉体を具現化させると、さくらの前に出て、二人の間に割り込む。

 

「どいてお兄ちゃん、そいつ殺せない!」

「おりゃぁぁっ!」

「どいてっ! どかないとっ! 止まれ、ない?!」

「祐一君!」

 

 

 

 

 



顔を下に向けると彼女の槍が真ん中くらいまで刺さっている。

少し遅れて腹部に鋭い痛みが走った。意外と思われるが体は偽物でも痛みはある。

正確には霊体に感覚という概念はないのだが。

何故痛むのかは生前から頭に刷り込まれたイメージだろう。

『刃物を体に刺されるととてつもなく痛い』というイメージを持っているから、刺されると痛みを感じるのだ。


逆に言えばその刷り込みを頭から取り除けば痛みを感じないのだろうが、そんなこと自我を持たない者が多い悪霊ならともかく、理性を持っている霊体には無理な話だ。

 

「ゆ、祐一君!」

「お兄ちゃん、なんで……」

「はぁ、いってぇ……」

 

俺は答える代わりにグングニルを引き抜く。

血は出ない。痛みはあれど所詮は紛い物の体にはそんな物は通っていない。

 

「なんで、なんでなんでお兄ちゃんはそいつを庇うの?
 私はお兄ちゃんをそいつから解放してあげるために戦っているのに」

「誤解してるようで悪いんだが、今俺がここにいるのは俺の意志だ。
 誰にも束縛なんかされてない」

「……えっ?」

 

少女にグングニルを明け渡す。

グングニルは彼女の士気に同調しているかのように元の槍の姿に戻っていた。

 

「だから君の誘いは嬉しいけど遠慮させてもらうな。俺にはまだやらなきゃいけないことがある。
 それが終わらないのにおとなしく成仏することなんて出来ないんだ」

「……」

 

俺には純一との約束がある。それを果たさないであっちへ行ったらあいつらに怒られてしまう。

それにこれは内緒だが、実は俺自身、約束とは別でさくらの成長を楽しみにしている所がある。

もう果たされることはないけど、自分の子供を見守る時はこういう気持ちになるのだろうか。

それでも表情が晴れない彼女に、俺は近づく。

 

「あっ……」

「ん、嫌だったか?」

 

申し訳ないという気持ちが少しでも伝わるように、少女の頭に手を乗せて左右に優しく撫でてやる。

俺が聞くと、少女は顔を赤く俯かせてゆっくりと首を横に振る。

 

「むー、祐一君。人を無視しないでよ」

「あぁ、悪い悪い。怪我は無かったか?」

「うん、祐一君のおかげで……ありがとう」

「気にすんな。ここで傷つけさせでもしたら、あの世で純一に何言われるかわかったもんじゃない」

「祐一君らしいね。でも、人の感謝は素直に受け取る物だよ?
 きっとそっちの方が気分が良いから」

 

笑いながらさくらがそう話してくれる。よくわからないがそういう物なのだろうか?

 

「――決めた!」

 

不意にだんまりを決め込んでいた少女が口を開く。

 

「何をだ?」

「私ね、お兄ちゃんに付いていくことにする。
 お兄ちゃんがまだやらなきゃいけないことをお手伝いしたいの。いいでしょ?」

 

ぐあ、上目遣いに涙目で頼むな。それは正直キツイものがある。

――主に理性にだが。

 
「ダメだダメだ! お前は上級天使だろう?
 精霊種の最強の一角が抜けるってことは、それだけで大事じゃないのか?」

 

なんとか理性を総動員、理論で武装して否定する。

正直ここでこの子を受け入れたとして、増えるのは人数と食費だけだ。

任務が終われば報酬が入るとはいえ、それまでは極貧なわけなのだし、できれば遠慮して欲しい。

 

「関係ない! 私の今の行動理念はお兄ちゃんなの。
 それが神様だろうと邪魔する奴は私の敵なんだから!」

 

 

――拝啓、天国の純一へ

 

よく昔、最高の妹は何か話し合ったよな?

 

血が繋がってなくて

 

お兄ちゃん思いで

 

容姿がものすっごくかわゆくて

 

『お兄ちゃん』と呼ぶ声がかわい過ぎて悶絶死してしまいそうなほどの妹。

 

よく話し合って、音夢に広辞苑でボコボコにされたのは記憶に新しい。

 

そんな感じの妹が今、目の前にいたらさぁ……純一。お前ならどうするよ?

 

 

 

『襲っちまえ! 襲って既成事実を――あ、ちょっと、広辞苑は死ぬっ、ぐほぁっ!!!』

 

 

 

……疲れてるな、俺。

というか、今のは誰だろうか?

 

「お兄ちゃん?」

「うっ……」

 

そこの名も知らぬ少女よ。小首をかしげて俺を見つめないでくれ。

 

ぶっちゃけ、萌えてしまって決心が揺らぐから。

 

それとさくら、そんな人が殺せそうな程きつい視線で俺を睨むな、そしてさりげなく足を踏むな。

心も体も痛いから。
大体、俺が何をしたよ?

 

 

「はぁ、わかった。わかったよ」

「ほんと? ……やった」

 

拳をぎゅっと握り締め、小さくガッツポーズをする少女。

なんというか微笑ましくて、自然に頬が緩んでしまいそうだ。

 

「そういえば、まだ名前を聞いてなかったよね。名前はなんていうの?」

「……」

「えっと、名前はなんていうんだ?」

「あのね、私はウリエルっていうの。お兄ちゃん」

 


幼稚園児が自分の名前を答えるように元気よく答えてくれる少女、もといウリエル。

……ウリエル? ウリエルってまさか――まさか、だよな?

 

「何でボクの質問は無視して、祐一君だと答えるの?!」

「私、お兄ちゃん以外の人とは馴れ合う気は無いの。お兄ちゃんと喋って滅殺されないだけありがたく思いなさい」

「なぁ、あるわけはないと思うが、ウリエルは『(ルナティック)抹殺者(イレイザー)』と呼ばれていたりしたりするか?」

「さすが物知りなお兄ちゃん! その異名で間違いないのよ」

 

俺の質問にウリエルは質問されるのが嬉しいのか、ご機嫌な様子で答えてくれた。

まぁ、さらっと爆弾発言もしてくれたわけではあるが。

多分、今の俺は引きつった笑顔をしていることだろう。

それだけウリエルの言ったことは驚愕に値する発言だった。

 

「ねぇ、そのウリエルちゃんの異名って何?」

 

俺の驚いた顔を見て、興味津々といった様子でさくらが聞いてくる。

どうやらさくらは知らないらしい。

小さい頃からこういう生活をしていて、勉強をしてこなかったのだし、当然なのかもしれないが。

 

「さくらは知らなかったか、結構有名なお話だぞ?」

「さくらは無知〜」

「うにゃ、でも知らないものは知らないよ〜!」

「わかったから暴れるな。ちゃんと教えてやるって」

 

そこで話が長くなりそうなので霊体に戻る。

 

『さくら、天魔戦争って知ってるか?』

「うん、数百年前に天使と悪魔が戦争したやつでしょ?」

『そうだ。その戦争は結果的には引き分けで終わったんだが――実際の戦況は悪魔が圧倒的有利な立場にいたんだ』

「そ、そうなの?」

『あぁ、それが何故引き分けに持ち込めたかというとだ。絶体絶命の大ピンチといった状況の時に三人の天使が現れたんだよ』

「その一人がウリエルちゃんなの?」

『そうだ。『(クリムゾン)支配者(マスター)ガブリエル、『白銀(ホワイトネス)疫病(カラミ)(ティ)』メタトロン、そして『狂気(ルナティック)抹殺者(イレイザー)』ウリエル。この三人の参戦により形勢が一気に逆転したんだ。ガブリエルが200体、メタトロンが270体、ウリエルが500体もの悪魔を屠ったといわれている

「正確には518体だけどね。お兄ちゃん」

「どっちにしろ凄いと思うけど……ボクじゃせいぜい10〜20体位が精一杯だろうし」

『で、後にこの三人は神の命令で上級天使でも一番上である熾天使に任命されたんだ』

「へーっ、それじゃあ、ウリエルちゃんってボク達よりもずっと年上ってこと?」

『あぁ、俺もビックリしたが、見た目がこれでも中身は立派なおばあちゃ―――』

 

 

グサッ!

 

 

「それ以上いうと刺すよ? お兄ちゃん」

『刺してからいうなよ……霊体になってて良かったわ。ほんと』

「でも、年上でお兄ちゃんっておかしくない?」

 

確かにさくらのいう通りだな。年齢的には俺がウリエルの弟の方が正確だろう。

 

「おかしくないよ。私は弟よりお兄ちゃんが欲しかったから」

「そういう問題か?」

「そういう問題だよ」

 

俺が聞くと、ウリエルはニッコリと微笑みながらそう答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

だいぶ時間がかかりましたがいかがでしょうか?

また予定と違う内容……orz

 

とりあえず備考をば

 

 

キャラ紹介

 

ウリエル

ランク:−(なし) 異名『狂気の抹殺者』

武器:槍

属性:火

 

天魔戦争で活躍をした熾天使で年齢は500歳。

天使の寿命は人間の約50倍くらいなので人間の年齢的には約10歳。

幼い頃は戦う事に快楽を見出す、戦闘快楽者で天魔戦争では518体もの悪魔を屠った凄い天使なのだが、二年前に偶然来ていたライング島で祐一の魂の輝きに一目惚れ。

お兄ちゃんになってもらおうと天界に連れて行こうとするが、途中で純一に邪魔されて失敗してしまった。(その時から性格が非常に丸くなった)

その為、純一は当然の如く、祐一を束縛してる(と勘違いしている)さくらにも敵意をむき出しにして襲いかかる。

 

 

 

 

神具について

 

詳しくは作中で語っているが、神が作ったとされる武器の総称。

神具にはそれぞれ『真名』と呼ばれるものがあり、その名を呼ぶことにより真価を発揮する。

 

 

グングニル

 

所有者はウリエル。

通常は純白の槍。真名を呼ぶと傘を閉じたような形に展開した突撃槍状態になる。

特出した能力は無いが、真名の状態では爆発能力を持っていて、使用者の好きなタイミングで爆発を起こす事ができる。(魔力は消費する)

 

 

 

魔術について

 

アースウォール

土の壁を生成する魔術。

 

ファイアブリット

火の玉を放つ魔術。

 

ウインドアーマー

風の鎧を纏う魔術。

攻撃の軌道を無理矢理曲げる事ができる。

 

ブリットパーティ

地・水・火・風の四属性の魔力弾を大量に撃ち出す。さくらのオリジナル魔術。

 

 

 

 

 

2005年5月17日作成
2007年8月8日修正改訂