闇のオワリ
欠け満ちる月は 闇と共に身を潜め
暁と共に日は昇る
泣くのはおしまい
青空の下 一緒に笑おう
Blazing Souls
Code.1 : 夜天の翼 - Wing of the night sky -
12.闇のオワリ
中に浮かぶ円形状の光。突如現れたそれが変化を見せる。
まずベルカを意味する魔方陣が展開され、光の周囲に、更に四つの光球を生み出された。
そこから現れるのは、四人の騎士。
烈火の将。鉄槌の騎士。湖の騎士。盾の守護獣だ。
「――遅いよ馬鹿」
愚痴を漏らす堕天の少年に微笑んで返し、シグナムは声を上げた。
遠く遠く、世界まで響くような、凛とした声で。
「我等、夜天の主の下に集いし騎士」
「主ある限り、我等の魂尽きることなし」
「この身に命ある限り、我等は御身の元にあり」
「我等の主、夜天の王……八神はやての名の下に」
最後のヴィータの声を合図に、白い光が弾け飛んだ。
中から姿を表したのは、黒に金のラインの入った衣装を纏う少女。
八神・はやて。
「はやて!」
「はやてちゃん!」
フェイトとなのはの声に笑って返すと、はやては手にしていた十字の杖を、天に高々と掲げた。
金色に輝くそれから白い魔力光が迸り、四散してはやてを包む。
アンダージャケットの状態から、更に装甲が付加。夜色の腰布と白の騎士甲冑、そして同色の、丸くつばの無い帽子が現れ、少女の姿を騎士として完全なものとした。
瞳は空色に。髪の色はクリームイエローに変色し、リインフォースとの融合を終える。
三対の黒羽は夜天の王を示す証。
夜闇に溶けて消え行く白い光と共に、祝福の風を連れ立って、夜の王はその姿を世界に晒した。
周囲を見渡せば、そこには済まなさそうな顔をした家族達。
頭を垂れようとするシグナムを手で制して、はやては優しく微笑んだ。
「リインフォースから、大体は聞いたよ。ごめんな、心配かけて。みんなが辛いの、気付いてあげられへんで」
「……はやてぇ!」
泣きつくヴィータをそっと受け止めて、はやては上を見た。
降り立つのは、三人の魔導師。
ジャケットが破れ、擦り傷だらけの高町なのは。結界の破壊の余波で、焦げ後を残したフェイト・テスタロッサ。そして、左目が血で塞がり、右腕にひび割れた白の鎧を身に纏う、相沢祐一。
「なのはちゃんとフェイトちゃんも、うちの子らが迷惑かけてもうて……」
「ううん、全然平気!」
「はやてが無事で、よかった……」
「祐一さん…平気ですか?」
「ったり前だろ。相沢さんちの祐一君は、こんな怪我じゃあビクともしないっての」
左手で胸を叩き、少年は悪戯っ子のように笑う。
大丈夫なものか。リインが戦い、観察した結果。彼の右手の能力は――
「……嘘言わないの、ばか!」
「うぃ!?」
突然の声と衝撃に、祐一は思い切りのけぞる。
胸に飛び込んできたのは、ここ半月で家族になった少女。
青い前髪を片方だけにまとめ、雪の結晶を模った白いピンで留めている。青い瞳に小柄な体。そして、自分のアンダージャケットと同じ魔導着。
「フィオ! おまえ、体は!?」
「春奈に魔力分けてもらった。それより、早く堕天兵装解いて!」
アースラ経由で転送を行ったのだろう。
すっかり元気なのはいいことだが、無理矢理抱きついて融合しようとするのだけは勘弁願いたいところだ。
そんな風にやいのやいの言っていると、黒い魔導着を着た少年が現れた。
「お楽しみのところ済まないが「どこが!? 助けてくだ」管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。時間が無い、簡潔に説明する」
取り敢えずフィオを肩から担いで、祐一はクロノの視線の先を見た。
先ほどなのはと同時に攻撃を叩き込んだ地点。そこには黒いドーム状のものが展開されている。更に周囲には、何かの尾のようなものや、先端にアームのついた、植物のツタのようなものがドームを守るように海から生えている。
「あれから防衛プログラムの暴走体が現れるまで約十分。現在のプランは二つ。強力な氷結魔法で動きを停止させるか、アースラのアルカンシェルで蒸発させるか・だ」
提示されたプランを示すように、クロノは青い宝石のはめ込まれた、白いカードを。
その隣に表示されたモニターには、赤いキーチェーンを下げた鍵を持った、リンディ・ハラオウンが映し出された。
それに対し、シャマルがおずおずと手を上げる。
「えっと…一つ目は多分難しいと思います。暴走した防衛プログラムは、純粋魔力の塊みたいなものですし……」
「コアがある限り、氷結結界も無意味になってしまう」
シグナムの補足に祐一はクエスチョンマークを浮かべるが、取り敢えず無理らしいのは分かった。
なら後者なら。
「アルカンシェルもずえったい・駄目!!」
「……なんでだ?」
「あんなもんココでブッ放したら、はやての家がなくなっちまう!」
論点そこかよ、と思うのだが、声には出さないでおく。
だが、ここから八神はやての自宅まで、少なくともかなり海鳴から離れているのだから、市街地まで効果範囲が及ぶということ。
数キロ先まで届くその力が振るわれれば、被害はどれほどになるだろうか。
「アルカンシェルって、そんなに凄いの?」
「発動地点を中心に、百数十キロ範囲の空間を湾曲させながら、反応消滅を起こさせる魔道砲、て言えば分かる?」
合流していたユーノの説明に、顔を青くするなのは。
正直祐一には今の説明も理解不能だったのだが、ともかく不味いのは流れから判断できた。
提示されたプランは無理。ならば他の方法を考えなければならない。
だが先の二つも良く分からないのに、自分が何か言えるわけないではないか。
――今までの流れから分かってるのは…封印無理で、アルカンなんとかだと効果範囲がでか過ぎるってことだよな
ならば、一つだけ方法があるのではないのか?
凄く単純で、滅茶苦茶かもしれないが可能な方法が。
「あーもーめんどくさい! みんなでズバッとブッ飛ばすわけにはいかないのかい!?」
「んじゃあココじゃないどっかで、アルカンなんとかをブッ放せばいいんじゃないのか?」
アルフと同時に発言したせいで、何となく気まずい雰囲気になってしまった。
しかもお互い理論も何もない。我ながら発想が貧困だ、とアルフと顔を合わせながら苦笑してしまうが、思った以上に周囲のメンバーは食いついてきた。
反応したのはなのはにフェイト、はやてだけだが。
「ズバッと……ブッ飛ばす」
「ココじゃないどこかで撃てば……」
「効果範囲に何も巻き込まんようなところ……」
顔を合わせ、同時に視線を上空に。
何事かと祐一は思ったが、三人の中でなにか結論がでたようだ。
三人で頷くと、なのははモニターに映るリンディに向けて言った。
「リンディさん。アルカンシャルって、宇宙でも撃てますか?」
刀@ 刀@
「俺ら全員でコアを抉り出して、そいつを宇宙に転送。最後にアルカンなんとかをブッ放す・か。お前ららしいというか何と言うか……」
「なんか色々気になる表現があったんは気のせいですか?」
苦笑いのはやてに無言のスルーで返し、祐一は周囲を見やる。
できたグループは全部で四つ。
なのは・ヴィータ組とフェイト・シグナム組、クロノにはやて祐一組。そしてサポート班だ。
オートで物理と魔法、二層ずつの防御壁を持つ防衛プログラムの防御を、前半の二組が破壊し、はやての魔法で行動を一時拘束。そこにクロノと祐一が攻撃を叩き込む。
最後になのは、フェイト、はやての三人による最大出力の攻撃でコアを摘出し、ユーノとアルフ、シャマルが宇宙に転送する手はずとなった。
祐一は、三人の攻撃が、より確実に敵を仕留めるための布石だ。
「メインじゃないけど、頑張らな――」
《Control device unison in(管制デバイス融合)》
「いと…な?」
髪が白銀に染まっていく。欠けた心が埋まっていく。
フェンリルロアーからの声とともに、先ほどまで抱えていた筈のフィオがいなくなった。
代わりとばかりに充足感が祐一を支配する。
「って、何が何でも融合したいのかお前は」
《したいじゃなくて、しなくちゃいけないの! ――Rock》
変化が現れた。
祐一の周囲に青い魔力の輪が交差するように展開され、それに平行して、右腕の装甲が砕けて消えていく。
唖然とする祐一をよそに、フィオはやり遂げたような吐息を漏らした。
「なん……で……?」
《古代ベルカ式特殊技能【堕天兵装】の能力は、魔力素子の強制収束。そんなもの展開し続ければ、ゆーいちの体は持たないでしょ。だから、私だけが施錠、開錠できる鎖で能力を封印したの》
まあ全部春奈の受け売りだけど、と最後にしめて、一息。
今の話を全て理解できたのは、はやての方だった。
自分とは違う、自分と同じ源流を持つ力。
自分の夜天の魔導書の能力が、知りえた魔道を我が物とする【蒐集行使】なら、彼の能力は周囲に遍在する魔素を無理矢理自分の魔力に変換し、全開の更に上を引き出すもの。
故にリンカーコアに異常なまでの負荷を強いる事になる、諸刃の剣だ。
そんなものを、何時までも展開するわけにはいかないだろう。
納得いかないのか宙に講義を続ける祐一だが、頑としてフィオは受け付けないようだった。
「グレイプニル……それがフィオの」
《私も知らなかったけどね。対【堕天兵装】用抑止プログラム、グレイプニル。私の許諾が無ければ、今後ゆーいちは装甲展開が一切できない》
「こらこら! ここ一番でそれはないだろ!」
祐一の攻撃手段は“敵に拳を叩き込む”。ただそれだけ。
故にその攻撃範囲は非常に小さく、またバリアブレイクが使えるとはいえ、テンペストブロウの威力は彼の瞬間最大出力を以ってしてもAA+相当だ。
所有している魔力量は多くとも、扱う技術と絶対的に足りない経験値では、ここが限界。
堕天の力を使ってようやく闇の書と互角だった彼にとって、今それ抜きで戦うのは非常に厳しい。
「フィオ!」
「取り込み中申し訳ないが、時間のようだ相沢祐一。くるぞ……!」
少し離れたところからのクロノの声で、祐一は顔を上げた。
黒いドーム状のものが、頂上から崩れていく。
そして中から現れたものは…巨大な異形だ。
蒐集した魔力生物の一部を継ぎ接ぎしたような、全長数十メートルはあろうかという体。恐竜を思わせる一対の前足に加え、昆虫のような二対の足。
黒羽を有した怪物の前頭部には、薄紅色の体をした女性の上半身があった。
「夜天の魔導書を、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……。闇の書の…闇」
十字の装飾が施された書を片手に、はやてがそう呟く。
悪意の固まりと化したそれが、身を震わせる。
そして悲鳴のような声が、異形の女性から漏れ出した。
それを合図にして動き出す者。なのはとヴィータだ。
「ちゃんと合わせろよな。高町・なのは!」
「――ヴィータちゃんも、ね!」
アイゼンの槌が魔力光を伴って消失し、代わりに現れたのは更に巨大なそれ。
ギガントフォーム。ヴィータの持つグラーフアイゼンの最終形態だ。
彼女がそれを大きく振り被ると、鉄槌の部分が何十倍にも巨大化した。
「轟天・爆砕! ギガント……クラーク!!」
振り下ろされるのは、暴走体にも負けぬほどの大きさとなった鉄の伯爵。
叩きつけるのは異形が展開する防御壁。
爆弾でも爆ぜたかと錯覚するような音と共に、第一の壁が崩れ去った。
そこで流れは終わらない。後方に待機していたなのはが、カートリッジをロードする。
「高町なのはと、レイジングハート・エクセリオン! いきます!!」
杖頭部に展開される二対の翼。強く輝くそれに呼応するかのごとく、先端に桜色の魔力が収束し、球を成した。
そこから四本の線が伸びたかと思うと、第二障壁にぶつかり暴走体の動きを停止させる。
だがそれで終わりではない。これは標だ。
その上を行く、全力の為の。
「エクセリオンバスター……」
意識を高める。魔力を練り上げる。
風は空に。星は天に。輝く光はこの腕に。
――不屈の心は、この胸に。
「ブ・レ・イ・ク……シュート!!」
撃つ。
四本の支柱を巻き込むように、極太の魔力砲が放たれた。
衝撃。粉砕。破壊。
桜色の少女の力が、次の障害を看破する。
『―――!!』
痛みを伴うような悲鳴を上げて、暴走体が海から生えた触手を動かした。
防御から攻勢に打って出る動き。だが、それをさせぬと阻むものが二人。
「そんなもん!」
「なのはには、届かせない!」
アルフとユーノが生み出した橙色と萌黄色の魔力の鎖が、それを拘束し捻り切った。
生まれた隙は、こちらの好機。
異形の背後に座した騎士が、瞳を開く。
「刃と連結刃に続く第三の姿。その身に受けて、知りて死ね」
鞘と柄を重ね合わせ、カートリッジをロード。
シグナムはレバンティンを第三形態に変形させる。
魔力光が迸り、その姿を弦へ。
ボーゲンフォルム。終の型。一撃必殺の騎士の弓。
弦の両側に備え付けられたカートリッジが駆動し、形成された矢にその魔力を込める。
「翔けよ隼!!」
《Sturmfalken!》
シュツルムファルケンがシグナムの手元から離れた。
火が軌跡を作り出し、矢は光となって盾を穿つ。
ひび割れた障壁はガラスの様に、たやすく砕かれた。
それを見据えた赤い瞳が、鋭く輝く。
「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・ザンバー。いきます!」
弾丸が力を送り、雷刃は輝きを増していった。
身の丈を上回るその刀身を振ることで、発生した衝撃波が暴走体の動きを止める。
掲げた剣には雷を。込める力には必閃を。
「撃ちぬけ、雷刃!!」
《Jet Zamber》
刀身が伸び、一筋の破壊となって力を振るう。
第四障壁はそれによって両断され、防御の手段を失った暴走体の体までもを切り裂いた。
痛みか、怒りか、暴走体が大きく戦慄き、海中から砲撃を行うための砲門を出す。
ワームの頭部がガラス玉のようになった姿。何体か現れたそれが魔力を収束させる――が、発射より早く海中から伸びた魔力刃によって破壊される。
白銀のそれを統べるのは、盾の守護獣。
「鋼の軛。砲撃なんぞ、一つも通さん!」
全ての障壁は砕き散り、残ったのは丸腰の悪意のみ。
祐一は拳を握り、瞳を閉じた。
魔力を巡らせ意識を深く落とし、扉に手をかける。
《ゆーいち! 駄目だってば!!》
「ごめん……でも、進みたいんだ」
先ほどまでは無かった青い鎖と錠前。
自分の力では開けられない。これは自分を思い、自分を案じてくれる人たちの優しさだ。
だけど下がれない。そう、下がるわけにはいかない。
「使えば死ぬかもしれない。苦しい思いをするかもしれない。でも、戦いたい。守りたい。自分の傲慢を通したい。だから、頼む」
《………》
その間にも動きは続く。
上空にいたはやては書を開くと、杖を持つ手に力を込めた。
与えられた力。祝福の風から貰った力。
それを放つために、夜天の王は祝詞を詠む。
「彼方より来たれ、宿木の枝。銀月の槍となりて……撃ち貫け!」
白いベルカの魔方陣が展開し、その周囲を魔力でできた球体が囲む。
【蒐集行使】。古代ベルカの特殊技能が、八神はやてに、敵をとどめる術を与えた。
十字の杖を突き出し、そしてはやては名を叫ぶ。
「石化の槍……ミストルティン!」
魔力の球は形を変え、槍となって敵の身を撃った。
穿たれた部分から暴走体の体は次第に石となり、全身を覆っていく。
前頭部にいた女性の体は、石化の影響から砕け散ってしまう。
だがしかし、暴走体はその石化を内から割り破り、体を強化させていく。
より強い敵に、対抗し得る力を得るため。
体のいたるところから、吸収した魔導生物の頭部や脚部といった、ありとあらゆるパーツが生え出した。
異形はもはや形状の均衡を考えていない。衝撃に対抗し得る進化のために、ただ得た情報を放出するのみだ。
《攻撃のダメージ以上に回復スピードが早すぎる! これじゃあ!》
「通っているなら道はある。プランはこのまま続行だ」
狼狽するエイミィの言葉にそう返し、クロノは手にしていたカードを杖へと変えた。
犬のような頭部をした、青色の杖。
デュランダル。グレアム総督が闇の書の主ごと封印しようと製作した、ストレージデバイス。
氷結魔法をプログラムされた、管理局の技術の叡智だ。
「悠久なる凍土。凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ」
雪が降る。
それは自然の力ではなく、クロノの魔力が生み出したものだ。
詠唱による魔法発動。デュランダルがそれを補助、強化し、闇の書の闇の周囲を凍らせていく。
「凍てつけ……!!」
《Eternal Coffin》
絶対零度の氷結魔法が暴走体を、凍てつく空間に封じ込めた。
水平線まで延びる、氷の牢獄。しかしその中でまだ闇は暴れ狂っている。
それを見据えるのは、青い瞳の少年。
右腕を前に突き出し、言の葉を繋げていく。
「相沢祐一とフェンリルロアー。そして、絆・フィオ」
融合した少女の前には、錠前がある。
そして手の中には、それを開く鍵がある。
堕天の力。自身を滅ぼすほどの、【傲慢】の化身。
使えば確実に自分の相棒は死に近づくだろう。だから本当はこのままにしておきたい。
優しい人に、少しでも一緒にいて欲しい。
けれど――
《出番よ、原罪の化身》
扉が開く。
力が形となって現れる。
右手に訪れた変化は、白銀の装甲が付加されたこと。
「そしてこれが俺の、唯一無二・絶対無敵の力ぁ! 【堕天兵装】だあああ゛あ゛!!」
装甲は腕まで伸び、二の腕を包み、肩まで届く。
肩甲骨からは翼が生え、肩口には天使の輪を思わせるリングが浮かんでいた。
手首から手の甲の装甲部には、十字の溝が掘り込まれている。
黒い翼は大気の魔素を強引に吸い上げた結果、可視化した魔力だ。
リンカーコアが軋みを上げる。体中が悲鳴を上げる。
けれど祐一は、右手を強く握り締めた。
「テンペスト――!」
《――ブロウ!》
「《ノヴァアアアア》!!」
翼を広げ、大きく羽ばたかせ、祐一は闇の書の闇へ真っ直ぐに飛ぶ。
硬く固めた白い拳からは、黒い魔力が溢れ出ていた。
――衝撃。
氷ごと砕くように、爆砕音を奏でながら黒い一撃が悪意を討つ。
ひび割れ破砕する氷と共に、暴走体の体が崩れ落ちた。
その好機を……掴み取る!
「見せ付けてやらあ……!!」
力が呼び覚まされる。
堕天の魔法が全身を駆け巡る。
究極の破壊。世界を否定する力。
止まれぬと、心が叫ぶ。
「全・力・全・開!!」
なのはが周囲の魔力素子を収束し固め、己の魔力を注ぎ込んで最強の砲撃を作り出す。
「疾風迅雷……」
フェイトが一刹那の内に儀式魔法を展開。発生させた雷をバルディッシュに注ぎ込み、大きく振り被る。
「一撃…必討ぉ!!」
祐一が肩口にあったリングを前面に。己のもの、吸収した魔素どころか、白亜の装甲すら魔力に変換し、天輪の前方に集束させていく。
「響け……終焉の笛」
正三角形のベルカ式魔法陣の、各頂点上で魔力をチャージ。
もてる全ての力を注ぎ込み、はやては傷つき暴れる暴走体を見る。
――これが、せめてもの。
謝るのはよそう。自分が幼かったことを、弱かったことを。
まだ弱いことを知って、自分の心に刻みつけよう。
だから、その為に。
最後の最後まで、目を逸らさずに受け止める。
「星屑の――」
「雷光の――」
「創造の――」
「終焉の――」
『破壊を』
四方から撃ち出される魔力砲が、闇の書の闇を貫いた。
圧倒的な力の奔流に飲み込まれ、暴走体はその体を消滅させていく。
その中で後方にいたシャマルは、旅の鏡を用いてコアを探し出そうとしていた。
高密度の魔力流の中、意識を集中させ、悪意の根幹を見つけだす。
「捕まえ…た!」
補足、束縛。
そこからユーノとアルフの魔方陣がコアを挟み込んだ。
目標は軌道上。艦船アースラの有する砲、アルカンシェルの射線上。
『転…送……!!』
三人の声が重なり、言葉は現実のものとなる。
海中から一直線。空を越えて宇宙へと、暴走体のコアが転送されていく。
「闇の書の闇、転送されながら高速再生中!」
「アルカンシェル、発射準備。チャージタイム完了と同時に、転送完了します!」
その言葉を聞いて、リンディは前方に浮かぶキューブ上の錠に、鍵を差し込んだ。
周囲のキーを叩く音が、段々と遠のいていく。
最悪の根源。こんな筈じゃなかった未来を、歩んでいくことになった原因。
恨みはある。だが、今ある感情は、憎悪のそれではない。
「終わりにしましょう。後悔と悲しみを」
転送が終わった。
射線上には凄まじい勢いで体を構築していく化け物の姿。
照準は合わされた。チャージも済んだ。
ならすべきことは唯一つ。
「アルカンシェル。発射!」
新たな未来を、掴むこと。
刀@ 刀@
《みんな、お疲れ様でしたあ! 事後処理等々いろいろあるんだけど、コアは消滅。状況は無事、終了でーす!》
エイミィの明るい声に、祐一は安堵の胸をなでおろした。
緊張が抜けた拍子にか、残っていた天輪もボロボロと崩れてなくなる。
周囲の皆も、安心した表情で互いの健闘を讃え合っていた。
吐息を漏らし、背後の女性に向けて語りかける。
「疲れた。寝たい」
「私も…今回は流石に堪えた」
背中合わせに支えあうように、祐一とシグナムは揃って笑う。
初めは何も知らずに、魔法を知ってからは敵として。だが今は味方となって自分を支え、自分に支えられている。
こんな経験、普通に過ごしていたら味わえなかっただろう。
「フィオもお疲れさん。体、大丈夫か?」
《さ…最後のがしんどかった……。ゆーいちは最後の攻撃担当じゃなかったでしょー》
「いやあ、なんかやらないとって、体が勝手に動いてさあ」
堕天の能力、クリエイション・ブレイカー。
知らぬうちに自分の頭にそれがあって、気付いたら撃っていた。
元のデバイスにそんな魔法は無い。恐らく【堕天兵装】自体が持つ魔法なのだろう。
そんな風に考えていると、体に力が入らないことに気付く。
興奮した余韻か、などと思っていた瞬間、意識が翳み始めた。
「……れ?」
上下左右が分からなくなる。浮いているのか落ちているのか。
誰かが自分を呼んだ気もしたが、それすらも分からなかった。
下り坂から転げ落ちるように、祐一は意識を失っていく。
「はやて――!」
ヴィータの声が、急に鮮明に聞こえた。
今にも消え入りそうな視覚を移すと、そこには髪を元の色に戻し、倒れてしまった八神はやての姿。
苦しそうに顔を歪め、それを見たヴィータが狼狽して叫んでいる。
――たすけなきゃ
そう思った。
そう思って、祐一は意識を閉じていった。
<あとがき>
随分と長らくおまたせいたしました。
第十二話でございます。
今回は堕天兵装の能力やらフィオの能力やら色々出てきましたが、皆さんついてこれたでしょうか(汗
説明は入れんといけないのだが、それを上手く入れるのが難しい。
遂に対【闇の書の闇】戦終了。次回でやっとこ一部最終話でございます。
二部の構想はほぼ完了していますので、一部が終わっても読んでいただけたらなあとかなんとか。
ただ内容が結構あれなので、賛否両論ありそうな悪寒。
自分の中では新しい試みなのです。
それではあと一話。
もう少しだけお付き合いくださいませ。
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