●リニアトレイン上空 12:19 p.m.

《ほんなら確認。高町隊長、ハラオウン執務官が空中のU型を撃破。フォーワード五人が、その間にレリック確保。いけるな?》
『はい!』 
《ええ返事や、安心する》

 新型デバイスの最終調整が終わり、食事を終えようとしたときだった。ロストロギアを保管したリニアトレインがアンノウンの襲撃にあった報を受け、機動六課が出動することになった。
 今は移動後、コントロールを奪われ暴走しながら走る、リニアトレインの真上まで接近している。
 機内にはなのはとフェイト。リインフォース。そして新人達が準備にはいっていた。

「それじゃあ、私たちは先に、お空の掃除に行ってくるね。ティアナ、みんなの指揮を頼める?」
「了解しましたっ」
「――ん。ヴァイス君、ハッチ開けて」

 応答の声の後、一瞬揺れてハッチが開きだした。
 先行するなのはと同様に立ち上がったフェイトだが、一度足を止めると、キャロへ近づき膝を折る。

「キャロ……大丈夫?」

 優しい娘だ。本当なら、ここに来ることも反対しておけば良かったと、少し後悔している。
 けれど、彼女の返答は予想を裏切るものだった。
 返答だけじゃない。彼女の瞳は、以前と違っていた。
 それは揺るぎない、決意の色。

「――はい!」

 フェイトは驚き、次に微笑んで、彼女の髪をそっと撫でた。
 そしてエリオに目配せをして、ゆっくりをハッチの傍へと向かう。
 優しい娘だ。知っていた。だけど、もう一つ忘れていた。
 ――あの娘はとても、強い子なのだ。

「ライトニングT。フェイト・T・ハラオウン。往きます!!」 

 雷光の光と共に、黒金の死神は空を舞った。
 それを見、リインフォースが新人達の前に浮かぶ。

「さて、それでは私たちも行きますよ」
「あれ、リインちゃんも?」
「……どこかの誰かが、無茶しないための監視です」

 誰のことだろう、と周りを見るレクサに、リインは呆れ、皆が笑った。
 士気は上々、気持ちもほぐれた。リインが騎士甲冑を纏い、モニターを展開する。
 そこに映し出されるのは、リニアトレインの車両図と、ガジェットの映像。後者には見たことのない、球形の敵影があった。少なく見積もっても、T型の倍はあろう全長をしている。

「報告の通り、レリックと思われるケースがあるのは、全車両のほぼ真ん中。これを挟むようにして確保に向かうチームと、私と一緒に管制室を奪取するチーム。計三チームで編成します」
「リイン曹長、このガジェットは?」
「襲撃直後記録された、新型です。T型と違いレーザー兵装が三つ。更に二本のベルト式アームが追加装備されています」
「物騒だなあ……」
「体の中にロストロギア入れてる方が、よっぽど物騒でしょうに……」

 ティアナの返しに、それもそうかと納得して、レクサはもう一度V型の映像を見た。
 単純に火力が三倍。更に格闘戦もこなせるタイプ。T型は大した驚異を感じることもなかったが、これは骨が折れそうだ。
 ……そう、かつてのレクサならそう思っていただろう。だが今の彼には、シグナム直伝の“奥義”がある。

「それじゃあ、スターズは管制室。ライトニングとレクサ君は、レリックの奪取に向かいます。OKですか?」

 リインの問いに全員が頷いた。
 手順は最後尾から先頭車両に、順次降下することになった。先発はスターズコンビだ。
 スバルは青い宝石のペンダントに、ティアナは中央に山吹色の宝石をはめ、X状の赤いフレームで覆ったカードに、それぞれ呼びかける。
 起動のキーとなる言葉。「セットアップ」の音声コードを。

《Standby ready. Set up》

 変わる。魔導師として、己が戦う最適の状態へ。
 スバルのペンダントは、彼女がより速く走るためのローラーブーツ、《マッハキャリバー》に。
 ティアナのカードは、強力で正確な射撃を実現する拳銃、《クロスミラージュ》に。
 バリアジャケットも以前と違い、なのはの姿を一部連想させる意匠を凝らしている。

「それじゃあ、お先!」
「みんなも気を付けてね」

 降下した二人を見届けると、次はライトニングの番だ。
 二人の装備は、依然と変化なし。内部の機構が大幅に強化されているのみだ。
 それでも起動すると、フェイトの衣裳を思わせる魔導着が構成されていく。

「――キャロ、行ける?」
「うん。心配かけてごめんね、エリオ君」

 そうして手を合わせると、二人と一匹は一緒に降下した。
 残っているのは、リインとレクサ。
 手をかざすとレクサを炎が包み込み、振り払うと赤い聖王騎士が姿を現す。
 操縦席でそれ見ていたヴァイスが、「こりゃすげえ」、と口笛を吹いた。
 訓練とは違い、甲冑と戦器の顕現を済ませる。

「釘を刺すようですが、くれぐれも無茶な真似はしないように。聖王騎士とはいえ、死ぬこともあるんですからねっ?」
「……大丈夫、信用して。俺、絶対に死んだりしないから」
「何だか論点がズれてる気もしますが……、とにかく行きますよ!」

 そして最後の一組が、暴走列車へと降り立った。

 
Ψ  Ψ  Ψ


「リボルバァァァ・キャノン!!」

 打撃系フロントアタッカーの戦闘法は、至ってシンプル。握った拳を相手に叩き込む、それだけだ。
 真っ正面から突っ込み、レーザーを回避。センサーである金のモノアイを叩き潰すと、両脇から伸びるケーブルを掴み上げた。
 ――ブン投げる!

「どっっせい!」

 ジャイアントスイングよろしく、ローラーブーツで体を高回転させて、スバルは傍にいたもう一体に投げ飛ばした。
 衝突、爆発。
 刹那、背後からの奇襲を壁走りして躱すと、カートリッジを一発消費した。
 右手に装着したリボルバーナックル。ギアが回転し、唸りを上げる。そしてまだ数メートルは間合いが空いたガジェットに対して、スバルは躊躇なく拳を突き出した。
 ダメージとなるのは、打撃ではなく衝撃波だ。
 それはガジェットを吹き飛ばし、天井を吹き飛ばし、ついでとばかりにスバル自身も吹き飛ばす。

「をわった!?」

 宙に放り出された直後だ。インテリジェンスデバイスの特徴たる自己判断、それによって発動したウイングロードが、スバルの足場を作り上げた。
 速度ではあっと言う間にリニアトレインに置いていかれる。直ぐさま体勢を立て直すと、スバルは車両の屋根へと降り立った。
 ブーツのタイヤが跡を残して、しっかりと床を踏みしめる。

「っとと。ありがとね、マッハキャリバー」
《No Ploblem》

 それにしても、と自身の新たなデバイスを見る。
 スピード、馬力、グリップ。どれをとっても以前使用していた自作ブーツの、何倍も上をいく高性能。
 調整の時から感じていたが、このデバイスは、自分にとって最高のポテンシャルを秘めている。

「凄いね、お前は」
《私は、あなたをより速く、より強く走るために生まれましたから》

 冷静な返答に、スバルは苦笑。そして「でも」、と言って続ける。

「少し、言い直そうか」
《……?》
「お前はね…私と一緒に走るために、生まれてきたんだよ」
《同じ意味に感じますが》
「違うんだよ、色々とね」

 今は最後尾から三両目。あと、残り二両のガジェットを潰して行かなければならない。
 気合いを入れ、額のハチマキを締め直した。

《――考えておきます》
「宿題だね」

 そう言うと少し楽しそうに、スバルは滑り出した。



「派手にやってるみたいね……っと!」

 先行させてたスバルの戦闘音をBGMに、ティアナはガジェットが撃ち出すレーザーを回避する。
 訓練以上に、相手の行動は単純明快。探知した相手を、その瞬間攻撃するだけだ。

「こちとら毎日強烈な弾道回避訓練してんのよ。こんな攻撃当たらないっての!」

 故に派手な立ち回りは必要ない。対象の攻撃に対して、必要最低限の回避をすればいい。
 回避は半歩。そのまま射撃体勢に入り、トリガーを引く。腹膜弾がAMFを貫き、機能を停止させた。
 それを確認したティアナだが、まだ敵は残っていた。同胞の残骸に隠れた一機が、死角をついて光線を放ったのだ。
 ガジェットはモノアイを用い、正確にティアナの頭部を狙った。回避不能のタイミング、例え今反応したとしても、防御すらままならない。
 だが――

「ハ・ズ・レ」

 頭部を貫通されたティアナが、文字通り“消え去った”。
 敵影を突如見失ったガジェットは、相手を探そうとし――ようとした途端、映像が砂嵐に変わる。
 そして、そのまま火花を上げて、床に倒れてしまった。
 背後にいるのは、ティアナだ。

「よし、ここはOK。それにしても、腹膜弾や幻影のサポートまでしてくれるとは……やっぱ良い子なのね、あんた」
《余計でしたか?》
「私的には、あんたみたいな優秀な子に頼りっぱなしなのはよくないんだけど……こういうときは助かるよ」

 そう言うと二丁の内片方を消して、ティアナはスバルと合流すべく駆けだした。
 
 

「ストラーダ!」
《Speerschneiden》

 魔力を付与した斬撃。エリオは槍を振り上げると、ストラーダの重さと勢いを合わせ、球形の大型、ガジェットVに向けて振り下ろした。
 しかしそれは二本のベルトアームに阻まれ、更にAMFによって魔法そのものを中和される。
 三ツ目のような金のセンサーが光り、そこから光線を撃ち出す!

「――くっ!」

 槍身のブースターを起動させ、強引にその場を離脱。エリオは宙で一回転すると、天井に着地した。
 敵もそれを見、ケーブルとアームを使って身を乗り出してくる。

「いつものAMFより強力だ。集中しても魔法がかき消されるっ」
「私も駄目。効果範囲がすごく広いみたい……」

 以前まで相手にしていたT型の効果範囲は、自身を覆う程度。だが今回の敵は、少なく見積もっても半径三メートルはAMFの影響を受けている。
 狭い車両の天井。相手の耐久力。彼我との戦力を分析しながら、エリオは次の出方を思案する。
 ――きた。

「この……っ!」
《Sonic Move!》

 三ツ目から発射されたレーザーを、キャロを抱えて真後ろに跳躍。一時的に距離を取る。
 だがこのままでは前進できずにジリジリと時間を奪われるだけだ。スバルとティアナが確保に向かっているとはいえ――
 ――それに甘えるわけにもいかない!
 自分がここにいる意味を、魔導式と共にエリオは思い描く。
 傷だらけの自分。暗闇にいた自分。あの人はそれに、光を与えてくれた。

 ――喰らいつけっ
 ――しがみつけっ
 ――雄々しく猛れっ
 ――奮えて吼えろっ 

 あの人へ何か返すがために!!

「ああああ゛あ゛あ゛!!」
《Speerangriff!!》

 槍頭にある魔力の噴射口から、金色が放たれた。
 初速は全速。幼いが故軽い体躯を乗せて、ストラーダは一直線に、ガジェットへ向けて突撃を行った。
 一瞬反応が遅れたためか、ベルトアームをすり抜けて、その攻撃はガジェットの“目”に命中する。
 しかしだった。AMFで弱体化させられた魔法。ガジェットそのものの強度。それらの要因の元、ストラーダの槍は、穂先が少し埋まったところで、止まる。

「しまっ――!」

 そこからは一瞬だった。身動きを一時的に制限されたエリオは、ガジェットにとって何のことはない、ただの動かぬ障害。
 だから巻き取り、締め上げ――廃棄する。

「エリオ君!」

 強烈な圧迫で意識を失ったエリオが、無造作に、リニアトレインから放り出された。
 向かう先は断崖絶壁。飛行ができれば助かるだろうが、できなければ、確実に死ぬ。
 エリオは、後者だった。
 故にキャロは、迷わず跳んだ。正確には、落ちた。

《何やってんのキャロ!? そんなことしたら――!》
《大丈夫やアルト。……そうやろ、キャロ?》

 通信越しのはやての問いに、キャロは頷いた。そうだ、自分なら出来る。自分は飛べなくとも、飛ぶための翼は持っている。
 幼き己が銀龍を抱きかかえ、下に落ちるエリオに向けて、必死に手を伸ばす。もう大切なモノを、望んだ自分を、離さないように。

――キャロちゃんはさっ、どうしてここに来たの?

 今なら答えられる。今なら自信を持って言える。
 私は……私は……!

「守るために、ここに来たの!!」
《――Drive Ignition》

 龍が、啼いた。地を揺るがすような大きな声で。
 キャロ達の真下に、桃色をしたスクエア型の魔法陣が展開。そしてそこから溢れた幾重の線が、キャロを、エリオを包み込む。
 線と線が結びつき、絡まり、一つになって、象られるのは卵の姿だ。
 生み出されるのは、銀の翼竜。成体となった、フリード。槍騎士と主を乗せて、彼はもう一度吼えた。
 その声で、エリオは意識を取り戻す。傍らに自分を抱きかかえた、キャロを見た。

「ごめんね、エリオ君。心配かけて」
「キャロ……?」
「ごめんねフリード。いままで窮屈な思いさせて」
「―――」
「もう逃げないから。迷わないから。私の戦意を、見つけたから」

 両手に嵌めたケリュケイオンが、輝きを放ち続ける。
 少しだけ、彼女が微笑む。
 その姿に、エリオは鼓動が一つ高鳴るのを感じていた。
 だから、起きあがる。頬を叩いて意識をクリアにした。
 しっかりしろエリオ・モンディアル。
 お前は彼女に守られるために、戦場にいるわけじゃないだろう?

「往こう。エリオ君! フリード!」
「うん!」
「―――!!」
  
 雷光が、煌めく。


Ψ  Ψ  Ψ


「向こうは上手くいってるみたいだね」
「――では、こちらも上手くいかせましょう」

 管制室は先頭車両。レクサが居るのはその手前、二両目だ。
 リインとレクサ、共にAランク級の魔導師であれば、ガジェットT型程度敵ではない。
 だが、目の前にいるV型。これに関しては話が違ってくる。

「エリオ君達のとこと合わせて、二体か……」
「AMFの効果範囲も全シリーズ最大ですか。やっかいです――ね!」

 会話を遮るように伸びたアームを、二人は左右に分かれて回避。
 横っ跳びから体制を整えつつ、レクサは魔法陣を展開。火で出来た燕、シュワルベ・フリーゲンを発動する。
 しかし、直撃したはずの攻撃はガジェットのボディを舐めるように逸れ、僅かな焦げ痕を残すだけとなった。

「球形はこちらの射撃ダメージを軽減するためですね。なら、直接攻撃しか」
「――だったら、俺がやる。リインちゃんは下がってて」
「なっ、レクサ君!?」
「あいつの狙いは、多分俺のレリックだ。それに、今度は無茶じゃない。今の俺なら、倒せるからっ」

 今度の攻撃は、躱さない。
 魔法陣を展開したまま微動だにしないレクサに、リインは驚き、彼の名を呼ぼうとした。だが次の瞬間だった。車両内に突如、彼を覆うように岩が突き出たのだ。
 ベルカ式魔法陣の象徴たる、デルタの三頂点。そこから現れたそれは、ガジェットの攻撃による衝撃で、砕け散る。
 その中から現れるのは――

「深緑の、聖王騎士……」
「――往くぞっ」

 緑に色を変えた、重騎士。それが一歩、踏み出した。
 そう、無茶ではない。勝てる相手に挑むことを、無茶をするとは言わないのだから。
 イメージするのは、鉄をも切り裂く重厚な剣。願いに応じて宝石と、四つのパーツが現れ、合一する。
 形を成したのは大剣だ。それをレクサは掴み、更に一歩、金属で出来た床を、踏みしめる。

『我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を』

 声がした。これは、オープンになった通信回線から聞こえる、キャロの声だ。

『猛きその身に、力を与える祈りの光を』

 同時に二つの補助魔法の発動。一度訓練で見たことを、レクサは思い出していた。
 ツインブースト。並列処理に明るくなければ、簡単には出来ない技術だ。
 声に力が籠っているのを、確かに感じた。これは緊張や迷いではなく、戦意がなせるものだった。

『いくよ、ストラーダ!』

 エリオのかけ声と共に、レクサも往く。前進に反応したガジェットが、三つの金色をした目から、レーザーを撃ち出してきた。
 直撃。しかしそれは鎧や籠手に当たったかと思うと、あらぬ軌道に逸れていく。
 車両内の床や天井に、細い焼け跡と焦げた臭いだけが残った。

『アームを断ち切って、丸裸にする!』

 止まらない。ひたすら前進するレクサの姿に、ガジェットは警戒すべきと判断した。
 そして自分が持つもう一つの兵装、ベルトアームを展開する。光学兵器が効かないのなら、直接打撃と考えたのだろう。
 だが、二本の腕が衝突しようと、レクサは歩みを止めなかった。
 二本の内一本は、手にした剣で断ち切った。残り一本が直撃したが、意に介さぬように、ゆっくりと、確実に、距離を詰めていく。
 シグナムから引き継いだ奥義を、実行するために。
 押しのけようとしても、逆にこちらのアームが悲鳴を上げている。その事実に、ガジェットは更に警戒を高めた。

『ロードカートリッジ!』
《Explosion!!》

 最後の手段なのだろう。三つのアイが同時に光り、エネルギーを凝縮していく。
 空気を裂くような音がして、それが今までで最大の威力をもっていることが、誰にでも想像できた。
 撃つ。
 同時に放たれた光線は一つに合わさり、太い一本のレーザーとなってレクサに殺到した。
 ――直。
 ――撃。
 周囲が攻撃の余波によって、煙に包まれる。
 ガジェットはセンサーを使い、相手の状態を確認する。自身に与えられた命令は、聖王騎士を殺すことではなく、その中にあるレリックを手に入れることだ。
 けれど、それはまだ人の形を残していた。

『一閃・必中!!』

 煙がはれる。レクサの姿に、ダメージの痕跡は一つもない。
 突き出した右手には、六角の形をした、魔力障壁が展開されている。
 AMFの環境下で魔法を発動する術は、集中力と、阻害に負けないほどの魔力密度。レクサは防壁陣を一面のみ展開し、それに魔力を注ぎ込んだのだ。
 気づけば、剣の届く距離。ガジェットの回路は、一旦後退を決断した。
 ――しかし、それはあまりに遅い判断だった。

『「おおおおぉぉぉぉ!!」』

 大剣を両手で握る。ありったけの魔力を込める。大きく振りかぶり、突き出す。
 シグナムから授かった奥義は、“剣の届く距離まで近づいて、叩っ切れ”だ。
 だから、そうした。中央を貫いた刀身を、レクサは根本まで突き入れる。
 瞬間、赤い炎と黒い煙を上げながら、大型ガジェットは爆発した。

「レクサ君!」

 巻き込まれた。リインは炎上するガジェットを消火するために、魔法を構築しようとする。
 だが、発動しようとしたときだった。火の中から黒い影が揺らめき、そして姿を現す。
 レクサだ。
 右手に剣を握り締め、傷一つ、火傷一つ負わず、悠然と彼は立っていた。

「……ね。無茶じゃなかったでしょ?」


Ψ  Ψ  Ψ


「スターズ、レリック確保。ライトニングとレクサ君も、V型ガジェット撃破、完了しました」
「……そか」

 一安心、といった風に、はやては椅子に背を預けた。
 空の敵も、なのはとフェイトが掃討した。今は新人達の元へ向かっているところだ。
 モニターにレリックの収まったケースを持ったスバルと、ティアナの姿。フリードに乗ってリニアトレインと並行して飛ぶエリオとキャロ。そして、大剣を担いだ、レクサの姿が映る。
 キャロはレクサと目を合わせると、ピースサイン。それを見てレクサは笑うと、手を振って応じている。
 
「これで一安心ですね。八神隊長」
「ひとまず、やけどね……」

 グリフィスにそう告げて、はやては足を組む。フリードの召喚の成功。レクサの成長。新人達の戦力も上がってきてるし、いい方に進んでいる。
 ……いや、それは願望なのかもしれない。いい方向に向かっていると、自分に言い聞かせたいだけなのかもしれないと、はやては自分の思考に自嘲した。
 新型ガジェットの導入。フェイクを使ってまでこちらにアプローチしてきた、敵の影。
 恐らく、相手は自分が誰か知られる必要もないのだろう。今までのことを考えれば、いずれバレることも含めて、行動しているとしか思えないのだから。

「ここからが、正念場か」

 誰にでもなく、そう告げる。
 激化するであろう戦いに思いをはせながら、それでもはやては微笑んだ。
 戦いを終えた彼らが、笑顔を浮かべていたから。
 帰ってきたら、笑って迎えてやろう。そう決めて、はやては次の指示を出すことにした。
 
 




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