――聖王に害なす者あらば、ほむらの心の騎士、切り突き払う戦器持ちて、火の如く敵を侵掠せん――













●ミッド首都・クラナガン近郊 02:15 p.m.

 紅蓮が、遺跡の周囲を赤く染める。
 火花の爆ぜる音。立ちこめる黒煙。破壊された無機の残骸。それらがない交ぜになって、地下の情景を作り上げていた。
 そしてそこに降り立つ影が一人。緋色の髪を三つ編みにして二つにまとめ、髪と同じ色をした騎士甲冑を身に纏った少女だ。背丈は低く小学生程度。帽子の両端には、ウサギを模した装飾が施されている。
 その少女が、鋭い眼光が周囲を見回し、見知った青年を発見。声をあげた。

「ユーノっ。大丈夫だったか!?」
「――ヴィータ」

 遺跡の入り口付近に、ユーノの姿を確認し、ヴィータは安堵の息を漏らす。
 見たところ大きな外傷もない。この状況を鑑みれば、奇跡と言ってもいいだろう。
 遺跡発掘と、そこに現れたガジェット群。報告を聞きすぐさま飛んできたのだが、自分の予想以上に、ここにいた陸戦魔導師の実力は確からしい。
 自分がここに来るまでに鎮圧は不可能だと、そうヴィータは思っていたのだ。AMFに対応していない魔導師では、ガジェットの相手は骨が折れる作業だろう、と。

「アタシが来る前に全部片したのか。やるなじゃねえか、おかのやつらも」
「……確かに、彼らはよくやってくれた。でも……」

 傍に駆け寄ったヴィータは、ユーノの視線が一点で止まっていることに気づく。
 ヴィータもそれに倣うと、そこには一人の少年の姿があった。
 炎にも負けない、赤い騎士甲冑。手と足には銀の鎧を装い、肩で大きく息をしている。
 よく見ると、少年を中心に、ガジェットの残骸が広がっている。それは、彼が一人で十数のそれを破壊したという証拠。
 だがその事実よりも、ヴィータは彼自身に驚愕した。

「レク……サ……?」

 かつて出会った少年。自分が戦いを教えた少年。
 そして、教わりながら、戦うことを嫌っていた少年。
 そんな彼が、炎の中に立っていた。
 炎の中、拳を握りしめていた。
 ――炎にも負けない紅蓮を、瞳に灯して。





Alternative StrikerS
【紅蓮】






●聖王医療院 02:53 p.m.

 ミッドチルダ北部、ベルカ自治領内にある医療施設。そこには大勢のけが人が、次々と運ばれてきていた。半刻ほど前に起こった、遺跡襲撃の影響だ。
 遺跡調査員と、周辺警護にあたっていた地上部隊の管理局員たち。彼ら全員を一つの場所に収容できず、近隣の病院と連携し、分配し搬送している状態である。
 そして、看護師たちが忙しなく駆け回っている院内の廊下の端。ユーノが通信用のモニターを使い、カリムと連絡を取っていた。

「――以上が、こちらの現状です。ガジェットの残党はヴィータが撃破。レクサは変身した後……眠っています」
『そう…ですか……』

 レリックを体内に取り込み、赤い騎士に変身したレクサ。怪我はそれほど酷くはなかったが、事情が事情だけに、精密検査を行っているところだ。
 扉に書かれていたベルカ文字。その解釈が間違っていなければ、彼の姿は【聖王騎士】そのもの。
 彼だからだったのか、彼でなくてもよかったのか……

「……すいませんでした。僕が安易に彼を誘っていなければ」
『いえ、ユーノ先生のせいではありませんよ。あの子の無鉄砲は、昔からなんですから』

 だから、自分もどれだけ苦労させられたことか。
 遺跡調査員になると突然言いだし、自分の反対を押し切ったことを思い出す。
 あれは……彼の理由に付随するところもあるのだが。

「僕はこれから無限書庫に戻って、【聖王騎士】についての文献を漁ってみようと思います。少しでも彼のためになるように」
『はい。私も、教会内の資料で調べてみますね』

 レリック事件と関連しているので、レクサは一時的にヴィータが所属する部隊、機動六課に行くことになると言う。
 そこからの方針は、今のところ未定。しかし不測の事態には、それ相応の対応が必要になるだろう。
 通信を切ったユーノは、彼の今後を思案する。良くて保護。最悪の事態は……
 ――考えるのは、よしておこう。
 六課は、はやての部隊だ。彼のことを無下に扱ったりはしないはず。
 だから、今は自分に出来る、最大限のことを成さなければならない。

「それが友達、だったよね。レクサ」

 気合いを込めるために、自分の両頬を平手で叩く。
 そしてユーノは踵を返すと、決意を新たに歩き出した。



「大体そんな感じ。今から検査結果聞いて、とりあえずそっちに連れてくよ」
『了解。でも、あのレクサがなあ……』

 診察室の前。ヴィータは黒茶色の髪をした、一人の少女とモニター越しに会話をしていた。
 鬢にバツの字に留められた、赤色のヘアピンが特徴的。それと隣り合わせに、もう二つ、黄色のピンを挟んでいる。
 八神はやて。機動六課の部隊長にして、若干十九ながら魔術師ランク総合SSという、驚異的な能力を持つ少女である。
 ヴィータの上司であり、十年前からずっと一緒にいる、彼女の大事な家族だ。

『詳しい話は、また帰ってきてからゆっくりしよ。診察結果はこっちに回してもらえるよう、頼んどいてな。多分その手のオカルト系は、医者よりうちの医務官の方が詳しい思うから』
「確かに。シャマルはずっと、アタシらの健康管理担当だからな」

 ものすげードジなのが玉に瑕だけど、と付け加え、二言三言交わした後、ヴィータは通信を切った。呼び出しがあったからだ。
 引き戸式のドアを開け、一礼して中へ。そこには難しい表情を浮かべた、白髪の中年男性が座っている。
 対面の椅子に座ると、早速医者は口を開いた。

「私はこの手の事態には詳しくないので、結果だけ言わせてもらいます」

 恐らくレクサの体内だろう。首から下、腰までを写したモニター映像が、ヴィータの眼前に現れる。
 一枚は、レントゲンで撮られた体内の映像。これは特に他の人間と遜色ない、普通の物だ。
 だが、もう一つのモニター。そこに写されている物は、少し違っていた。
 胸部中央にある、レリックを形取った影。それを始点に、体中に血脈のような物が伸びている。

「これは彼の魔力ラインを撮影した物なのですが……見ての通り、通常リンカーコアがある部分に、結晶のような影が映っています」
「つまり……」
「そのレリックと呼ばれる結晶体が、彼のリンカーコアと融合した。そう考えてもらって構わないかと」

 さしずめレリックコアといったところでしょうか、そう言って医者は言葉を切った。
 データを見ると、魔力値が昔に比べ数十倍に膨れあがっている。最後に会ったのが三、四年前だが、そこからどんな訓練をしようと、こんな風に魔力値が急上昇することは不可能に近い。

「通常でも、魔力値を上げるには、それなりの苦痛を伴うものです。それが、レベルDから、一気にレベルA。そんなことをすれば、とてつもない激痛に見舞われるはず」
「けれど、ですか?」
「……当初はどうだったか知りませんが、ここに移送されてきた時には、容態は安定していました。本来ならあり得ないことです」

 おおよその見解は、魔力容量の上昇と、聖王騎士に変身できるようになったというところか。ヴィータは診断結果を六課に回してもらえるように言って、診察室からレクサのいる病室に向かう。 
 今まで何のための道具か分からないでいたが、これでレリックの力の一端は知ることが出来た。要は、魔導師と融合させることで、その戦闘能力を上昇させる力があるのだろう。
 そして、それは同時に人を兵器と見ることであり、今の倫理観からは否定されるもの。
 終わらない争いの終末に生み出された、禁忌の技法だ。

「……どう説明すっかなあ……」

 普通の人間なら、そうなったらパニックに陥るのが自然だろう。
 言葉に気を付けねーと、と一人ごちて、ヴィータは個室の扉を開けた。
 そこにいたのは、患者服をたたんで、最初に着ていたパーカーを着込む、レクサだ。

「――なっ、お前!?」
「あれ、ヴィータさん? どうしたんですか、こんなとこに?」

 つい先ほどまで寝ていた青年が、不思議そうな顔をしてヴィータを見る。彼にとっては当然だろう。
 遺跡では彼女の姿を確認していなかったし、数年ぶりに会う“先生”が、いきなり彼を訪ねて来たのだから。

「お、お前…大丈夫なのか? その……」
「全く持って問題なし、ですよ。赤い騎士の力も、大分落ち着きましたし。――それより聞いて下さいよ! ユーノさんと遺跡調査に行ったんですけど――」
「大体ユーノから話は聞いた。レリックが体ん中に入ってったんだろ?」
「そうそう! こう、スポッと! ……いや、スルッと?」

 とりあえず、彼の方に問題はないらしい、とヴィータは一安心。リンカーコアは人の脳にも深く繋がっているため、その影響で人格まで変わってはいないかと心配していたのだ。
 ガジェットに襲われてから、赤い騎士に変わるまでの顛末を聞き、おおよそユーノの話を補完する。
 確かに変わった瞬間は激痛が走ったらしいが、戦う間にそれも和らいでいったそうだ。目覚めた時には全快していて、むしろ体中から力が漲るような感覚だったらしい。

「それで、気になることがあるんですけど」
「ん? 何だ?」
「あのレリックって結晶に触れたとき、多分昔の、聖王騎士のイメージが見えたんです。俺が見た赤い騎士は、何か武器を持って戦っていて……でも、俺が戦ったときは何の武器も出てこなかった……」
「……」

 ぼんやりとだが、長柄の武器であったのは分かっていた。だがもう一歩のところで、レクサはその武器が何なのか、イメージできないでいるのだ。
 薙ぎ払うような動きを見せていた。突き抜くような動作を見た。だが、それがどんな物なのかが掴めない。
 だから戦いの先生であり、恐らくはレクサが見た聖王騎士と、同じ時代にいたであろうヴィータに、アドバイスを求めたのである。
 だが、そこまで説明したレクサがヴィータを見ると、彼女は険しい表情をつくっていた。

「ヴィータ…さん?」
「おめー。それ聞いて、どうするつもりだ? まさか、自分も戦うなんて言うつもりじゃねえだろう――」
「戦います」

 口が「あ」の字を作るより早く、レクサが答えを返した。

「俺、戦いますよ。だって聖王騎士の力を手にしちゃいましたし、それに――」
「っざけんな!!」

 ヴィータの返答は、激昂のそれ。レクサの胸ぐらを無理矢理掴むと、小さな体からは想像もつかない力で、ベットに押し倒す。
 目を丸くするレクサに対し、鋭い視線を更につり上げ、ヴィータは叫ぶように言った。

「力があるってのは、戦うための理由にゃならねえんだよ! 勘違いしてんじゃねえ!」
「……っ。でも!」
「お前は騎士でも魔導師でもねえ、ただの遺跡調査員だ! はやてのとこにつれてって、しばらくは六課にいてもらう。そんで大人しくしてろ!」

 反論を許さない、強い口調。それがレクサに、二の句を告げさせない。
 ヴィータは舌打ちして手を離すと、通信が入ったのを確認して、病室を出た。
 残っているのは、仰向けに倒れた、レクサ一人。

「だけど……俺は――」



「どうした、ルキノ」
『ガジェットの反応が計七体、確認されました。進路はそちらに向かっているようです』
「……レクサの中のレリックに反応してんのか」

 封印状態にない所為か、それとも安定してないが故か。
 どちらにせよ、進路がこちらで、その上自分が一番近くにいるなら、迎撃するのが当然。
 ――あいつにだけは、戦わせるわけにゃいかねえ……!
 昔会った時に、感じたことはそれだった。彼は、あまりにも戦いに向いていないのだ。
 訓練の時はそうでもない。だが、実際に模擬戦をするとき、時折…とても辛そうな顔をする。
 それはまるで、全ての争いを悲しむようで。

『ヴィータ副隊長?』
「――なんでもねえ。お前は周囲住民の避難を。ガジェットはアタシが潰す」
『了解!』

 なのはは今、新人達の教育中。あまりこちらに意識を割いてもらいたくない。
 現状何とかなる分には問題ないのだ。だが、今後敵側の攻撃が熾烈を極めることがあれば、それに対処できる戦力が欲しくなる。
 今を考えるよりも、明日より、確かに強くあれるように。
 だからここは、自分一人で叩く。

「んじゃあ、行くか!」



 体調は万全。だが四肢は妙に怠い。レクサは病室を出て、準備運動がわりに歩き出した。
 ――ヴィータさんの言ってることも、分かるんだけど……
 戦いたい、わけじゃない。戦う必要がないのも、分かっている。
 けれど、力を手にしてしまった。それに対して、自分の取るべき道は、戦うことだと思ったのだ。
 何かを手にしたなら、それに対する責任をもて。そう、昔教わったから。 

「……ん?」

 待合室にまで出てくると、妙に周囲が騒がしいことに気が付いた。
 見れば、看護師達が患者や院内の人間を、避難させている。
 何事か聞こうと看護師へ歩み寄ろうとした、そのときだ。レクサの脇を抜けて出口へ向かう、男がいた。額や腕に包帯を巻き、よろけながらも出て行こうとする彼を、後ろから追いかけてきた、多分妻と娘であろう二人の女性が制止する。

「駄目ですそんな体で! ……今日だって、遺跡調査の警備だって聞いたから、安心してたのに!」
「大丈夫だよ。機動課の空尉が戦ってくれてる。僕がするのは、この病院の警護だけだ」
「だけど……!」

 あの時にいた、陸士の一人。数刻前のガジェット戦の傷も、まだ癒えていないだろう。だが、彼は優しく微笑んで、そして戦おうとしていた。
 彼の陸士服の裾を掴み、幼い少女が父に問う。

「おとーさん。いたくないの?」
「……痛いよ。まだ、凄く痛い」

 だけど、と彼は言う。彼以外の陸士たちも、傷を抱えたまま魔導器を握り、そして次々と院外に向かっていく。
 小さな体に合うよう膝を曲げて、自分の娘を抱き寄せる。
 
「お母さんや、オデッサが痛くなる方が、お父さんはもっと嫌なんだ」

 そしてレクサの中で、何かがはじけた。



●ミッド北部海上 03:28 p.m.

『目標との距離600。およそ57秒後、接触します』
「了解だ!」

 ヴィータは更に加速。余波で海面が裂け、水しぶきが舞い上がる。
 市街地で戦闘になれば、無関係の市民に被害が及ぶ。それを避けるためにも、自分がこの海の上で全機撃墜しなければならない。
 十体いるガジェットは、そのどれもが当初から対処にあたっているT型だ。最近では航空型と大型の二種が現れたそうだが、それがいないのなら、大きな問題はない筈である。
 レクサはどうしているだろうかと、そのことがヴィータの頭によぎった。
 賢い子ではある。自分が教えたことも、キチンと力にした。シグナムが教えた剣技も、形になるまでに時間はかからなかった。
 けれど、やはり彼には傷つけることに、壊すことに抵抗があるのだろう。一年、時間があれば教えてきたが、その間に彼が模擬戦で勝ったことはない。
 そのことは彼自身も分かっている。だから、本当は戦いたくないはずなのだ。
 けれど、同時に……

「妙に頑固だからな、あいつは」
『ヴィータ副隊長!』

 苦笑したところに、通信が入った。声色が焦りを見せている理由は、ヴィータ自身も分かっている。
 ガジェットが進路を変えたのだ。方角は……廃棄都市区画。

「ったく、あのバカが!!」



 エンジンを止め、レクサはバイクから降りた。
 彼が立っているのは、ミッド北部の海に面した地域。廃棄都市区画。
 病院からは離れた場所で、尚かつ住民の姿はない。ここなら、何かが爆発したり、壊れたりしても大丈夫だろう。
 と、ジーンズのポケットに入った小型端末が電子音を鳴らした。誰かから通信が来た合図だ。
 誰かは大体予想がつくので、レクサは右手をうんと伸ばし、掴んだ端末を体から離す。そして、左手で右耳を塞いだ。
 繋がる。

『なにしてんだ、このギガ馬鹿野郎!!』
「す、すいません……あと、出来たら音量をもう少し下げ――」
『アタシは大人しくしてろって言ったよな!? なのにお前がそこにいる理由を二十文字以下で説明してみろ!!』
 
 声が大きすぎて、音にノイズが入った。画面には、怒髪天といった表情で空を飛んでいる、ヴィータの姿。
 もの凄くおっかない。おっかないけれど、決めたことがある。
 だから、伝えなければいけないのだ。
 レクサは軽く深呼吸。そして意を決し、真っ直ぐに画面のヴィータを、見る。

「俺は…何かを壊したり、誰かを傷つけたり、戦ったりするのが嫌いです」
『……分ーってるよ』
「でも……」

 病院で、傷だらけの男を見た。傷ついて、痛くて、それでも戦おうとしていた姿を見た。
 それは、自分の大切な人のためで。
 それは、誰も泣かないように、するためで。

「大切な人が傷ついたり、何かが壊されたり……そうやって、誰かが悲しむのを見てるのは、もっと嫌だから! 誰にも、泣いていて欲しくないから!」

 無機の音が近づいてくる。 
 あの女の子に泣いて欲しくない。あそこにいた人たちに、悲しい思いをして欲しくない。
 悲しいは、凄く辛いから。大切な人が、自分の世界の一部が欠けるのは、とても辛いから。
 さあ行こう。明日誰かが、笑えるように。

「だから、やります! ――戦います!!」

 携帯端末を投げ捨てる。瞳が赤く色を変える。
 胸の奥、レリックが大きく鼓動した。
 正面からやってくるガジェット。その勢いは猛牛のようで、真っ直ぐにレクサに突進してくる。
 それを大きく振りかぶって殴りつけると、殴った腕から炎が噴き出した。その炎は全身にまでおよび、レクサの姿を覆い隠す。
 炎上する体のまま、レクサはガジェットの一体に回し蹴り。着地と同時に放たれた光線を右手で弾くと、撃ってきた敵に対して殴りつけた。
 インパクトと、炎が吹き飛ぶのは、同時だ。

「赤い…騎士……」

 ほぼ同時に到着したヴィータが、彼の姿を見る。金のラインが入った、赤色の騎士甲冑。
 だが、やはり武器を持っていない。それは、彼が明確にイメージを描けていないからか。
 切り突き払う、騎士の戦器。

「くそっ。やっぱり駄目か!」
「とにかく倒すのが先決だ! 囲まれんじゃねえぞ!」

 レクサが包囲されかけたところで、ヴィータの打ち出した鉄球が、二体のガジェットを貫いた。
 無手の状態で、レクサはガジェットの黄色いモノアイを蹴りつける。それによって、仲間を巻き込んで後退するが、稼働には問題ないようだった。
 決定打が足りない。何度か攻撃すれば倒せるが、それでは遺跡の時と同じ。周囲への被害が大きくなる。
 斧ではない。切るには最適だが、突きに適していないから。
 槍ではない。突くのに特化してはいるが、切るとなると威力がないから。
 鉤なら突いたり払ったりできるだろうが、決定打がない上に切るとなると矛盾が生じる。
 そこまで思考して、レクサは一つの結論に達した。それはとてもシンプルで、けれど思いつかなかった物だ。
 どれでもないなら――どれでもあるなら?

「そうか!!」

 紅色のベルカの魔法陣が展開した。
 レクサが手を突き出すと、円形の魔力核たる宝石が現れる。宝石は甲冑と同色であり、金色のフレームに嵌め込まれている。
 そして次、その宝石を支点とするように、四方に四つのパーツが接続された。それは柄であり、槍であり、斧であり、鉤である。
 斧でもあり、槍でもあり、鉤でもある武器。
 炎の騎士の、力の具現。

「ハルバートか!?」
「これが、俺の!」

 魔力が通ったハルバートの刃が、高熱で白く輝いた。
 レクサは振りかぶると跳躍。斧の部分でガジェット一体を袈裟斬りに両断すると、そのまま槍で傍にいたもう一体を貫いた。
 内部で刃に込められた熱量が、ガジェットの機構を焼き潰す。
 爆発。
 金属片を四散させて、ガジェットは粉々に吹き飛んだ。
 それを確認した残り三体のガジェットたちが、後退を始める。
 だが、それも束の間。その残った鉄器も、ヴィータの放った鉄球で撃ち抜かれ、爆破した。
 全機撃墜。被害規模は最小限に抑えられ、死傷者も0だった。

「……あの…ヴィータさん」

 荒くなった呼吸を整え、騎士甲冑を分解。元の姿にレクサは戻る。
 そして、バツが悪そうに、背を向けているヴィータに話しかけた。
 言われたことを破って、自分の勝手で戦ってしまった。だからきっと、もの凄く怒っているだろう。
 強張った表情で彼女の言葉を待つと、ヴィータがポツリと漏らした。

「……二十文字」
「――へ?」
「アタシは二十文字で説明しろって言ったんだけどな。だから、減点だ」

 ポカンとするレクサに、ヴィータは振り返って、そして悪戯っ子のように笑う。
 それを見て、レクサは思わず吹き出すと、ヴィータに向かって駆け寄るのだった。







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